イベント・レポート

第15回アマチュア将棋団体日本選手権

〜〜〜ジュポン化粧品、連覇〜〜〜

年月日:2003年2月15日(土)13時〜18時

場所:東京都大田区「(株)リコー・大森年金会館 2階」

主催:(株)リコー、全日本学生将棋連盟

後援:週刊将棋

(敬称略)

リポータ:西田 文太郎 e-mail : buntaro.nishida@nts.ricoh.co.jp

【リコーのラグビー部も元気】

 今春はリコーのラグビー部も28年ぶりに全日本選手権に出場し、初戦早稲田大学を下している。この際一気に優勝を勝ち取って欲しいものだが、惜しくもベスト4止まりだった。リコーのラグビーは2度しか優勝していないのに対し、リコーの将棋は6回優勝している。ここのところやや低調なので、今年は心機一転巻き返しを図りたいものだ。
 もともと将棋の日本選手権はラグビーの全日本選手権が手本になっている。ラグビーは社会人側が学生を寄せ付けない強さなので、何時の頃からかシステムが変わり、社会人の上位4チームと学生の上位4チームが全日本選手権をかけて激突するようになった。しかし社会人側の強さは変わらず、今春も1回戦の4試合は全て社会人チームが勝っている。
 将棋の方は、当初社会人チームが優勢だったが、徐々に学生側が盛り返し、ここまで社会人側の8勝6敗となっている。学生界最強の立命館大学が勝てば学生側は後一つで五分に持ち込むことができる。社会人対学生の将棋団体戦、学生側がどこまで迫れるか興味深い。

【全日本選手権もさわやかに】

 今回の社会人代表は、職団戦で、春優勝・秋準優勝いうことで、ジュポン化粧品(選手紹介はこちら)が2年連続選ばれた。リコーは春が準優勝で、秋の優勝にかけたけれども日本レストランシステムが優勝し、リコーは残念ながらベスト4止まりであった。各チームともアマチュアの超強豪が名を連ねるようになり、優勝することは厳しくなりつつあるが逆にそれだけ職団戦での優勝は社会人日本一の名に相応しいものになってきている。
 学生代表は12月の王座戦(第33回学生将棋団体対抗戦)で、一年ぶりに優勝した立命館大学(選手紹介はこちら)となった。前年明治大学に敗れた立命だが、その明治、東大を破る破り勝ち点9をあげての優勝は立派なもの。中でも、武田俊平、加藤幸男の二人は全勝で絶対の信頼感を誇る2枚看板だ。武田俊平は王座戦で3年連続全勝を果たし連勝記録も樹立している。

【七将戦】棋譜鑑賞

 立春から10日ばかりたったこの日は晴天に恵まれ、気持ちがいい。今年は新入社員の馬上勇人が菊田と共に大会の進行役をやっている。太田、山田、桑山、水山も手伝いに来ている。こうした若手が積極的に運営にも参加してくれるのは嬉しい。
 場所は馬込の環七沿い、リコーの年金会館の一室。7人が一斉に対局をしている。持ち時間は90分で使い切ると一手60秒未満というルールである。アマチュアの大会では一番じっくり時間を使うことが出きる大会だ。大将の棋譜取りをかってでた太田が駒を振る。「立命奇数先」と大将の武田が叫ぶと、次々と、「立命奇数先」という元気のいい声がリレーされていく。立命のチームワークに学生側の勝利を期待させるものがある。その上、京都からの遠征にもかかわらず多くの部員が応援に駆けつけてきている。女性も数人いて、中には奨励会に在籍していた石内奈々絵の顔も見える。

 ジュポン化粧品は昨年優勝した余裕からか、七将席は多忙な社長上岡淑郎の指定席になりつつある。昨年は、事前の研究が功を奏し、見事な勝利をもぎ取っている。
 対する立命は産業社会学部3回生の桜井英孝。赤旗京都代表になって上り調子、王座戦では三将で出場した。学生が勝つためには、ここはキープしなくてはならない。
 先手桜井は三間飛車に振って美濃囲いに組む。対する上岡は居飛車穴熊を目指す。これを見た先手は石田の好型に組み上げる。長い駒組みも飽和点に達し49手目で▲55歩と先手が仕掛けた。駒組みの途中で1歩を手にしているので、△55同歩▲65桂△64銀の時に手筋の手裏剣▲54歩が飛び先手が主導権を握った。
 やむを得ず上岡は△65銀と銀桂交換に甘んじようとした。意外にも先手は更に良くしようと取れる銀を取らずに▲53歩成とした。しかしこれはやや疑問のようだ。後手は取られるはずの銀で△76銀と有難く飛車もちょうだいする。
 これに対し、手の調子からは▲42とと角を取って進撃しなければおかしいが、本譜は▲76同銀と銀を取った。当然後手はあたりになっている角を逃がして△24角とでる。先手は▲43銀と食いついたが△64歩と先手の頼みの角のにらみを遮断される。先手どうするのかと見ていると、▲32銀成△同金と一枚はがしてから▲65銀と歩の頭に出ていった。取れば角筋が通る。後手は冷静に飛車を敵陣に降ろす。先手は幸便に▲54銀と攻めに参加する。ここで後手に変な手が出た。△56桂! なんだこれは?何取りにもなっていない。対局心理は思いがけない悪手を誘発する。△99飛車成くらいで将棋は終わっていた。助かった先手は▲43銀成と突っ込む。しかしここはと金で行った方が相手の受け駒が無くなるのでよかったのではないか。ここから、延々と金や銀の打ち換えが続き、退屈なときが流れる。先手には千日手に逃げる手もあったと思うが、若者は若者らしく猪突猛進する。
 67手目から213手目まで3枚での攻めが続いた。俗に4枚の攻めは切れないというが3枚の攻めでは心細い。この間、隙を見て後手は敵の駒をはがしている。214手目についに△48歩と攻めに転じた。先手は受けていては勝ち味がないので▲23香と打った。後手は△33銀打ちと穴熊らしく駒を足して受けたが、△49歩成と攻め合って勝っていた。▲22香成に△同銀と引き雲行きが怪しくなってきた。その後も後手勝ちの局面が続いたが、236手目△22銀と上がったのが、何かの錯覚。おそらく長時間の長手数でくたびれ果てたのだろう。金銀の繰り替えで金が無くなって詰まされてしまった。247手の長手数だった。
 いみじくも上岡社長は打上げの挨拶で語っている。「普通なら社会人側が有利だと思うが、この全日本選手権はアマチュアでは一番持ち時間が長い。そこに学生側の活路があるのではないか」。まさに、体力勝負の七将戦、お二人ともお疲れさま。

【六将戦】棋譜鑑賞

 先手は94年アマ竜王の青柳敏郎、いわずと知れた強豪だ。宇都宮工場の生産部門で大勢のアウトソーシングの責任者として多忙な毎日を送っている。対する鈴木雄貴は、国際関係学部1回生で納豆・豆腐が好きで、レーズンは苦手という。青森代表でアマ名人とアマ竜王の全国大会に出場経験がある。王座戦でも七将でポイントゲッターであった。
 後手の鈴木が四間飛車から美濃囲い。対する先手は居飛車穴熊に進む。これを見て後手は銀冠に組み替えた。47手目▲46歩ではじめて駒がぶつかり、中盤戦となる。続いて3筋、5筋で歩が衝突し再度4筋に▲46歩と合わせる。更に6筋、2筋でも歩がぶつかって全面戦争になる。結局、3、4、5筋は先手が制圧し、代わりに4筋6筋の敵陣内に先手の歩が垂らされている。位が活きるか、と金が活きるかの激しい攻防だが、99手目位を活かして▲55角と打って先手の優位が拡大した。その後10手ほど進めて、後手が潔く投了した。

【五将戦】棋譜鑑賞

 ジュポンの渡邉徳之は、昨年のアマ王将戦で東京代表になっているアマ強豪だ。大柄なので盤を挟んで座っただけで威圧感がある。
 立命は次期主将の君島俊介。理工学部2回生。学生準王将で、王座戦では六将をつとめた。グラビアアイドルの小倉優子にはまっているとか。さすがにおじさんにはまぶしすぎる。かわいすぎる。たのむからそんな眼差しでおじさんを見つめないでおくれ。
 将棋は、アマチュアでは地味な腰掛け銀戦法だ。見たことはあるがほとんどやったことはない。従って急所がどこなのかもわからない。後手渡邉が△65歩と位を取った手に対し、先手君島が▲45銀と仕掛けていった。△同銀▲同桂となって、この桂馬が活躍するかどうかが焦点となった。後手は、ここで今までにらみ合ったままだった角を交換した。そして△37角と飛車取りに打ち込む。▲55角と打ち返し△92飛車に▲27飛△19角成と香を犠牲に先手を取り▲83銀と乏しい武器を投入する。しかし、せっかく手中にしたはずの飛車を取ることができず、銀を犠牲に馬で桂香を拾うのではいかにも効率が悪い。しかも先手玉は88に居るため、角のラインに入っていてどうにも具合が悪い。
 その後、先手は飛車を召し取られ、後手は玉の上部を開拓した。やがてそのまま押し切られてしまう。

【四将戦】棋譜鑑賞

 ジュポンの四将 池田将は奨励会を三段まで上りつめた強豪だ。礼儀正しくいつも挨拶をしてくれるので気持ちのいい青年だ。新婚の夢枕で、最近二日連続でアマ名人になったそうだ。
 一方の熊野剛は平成最強ベスト8、オール学生3位の実績がある。王座戦も五将で活躍した。産業社会学部4回生で、東京に就職が決まっている。女優では鶴田真由が好みで、苦手はにんじん。
 将棋は後手熊野の四間飛車高美濃に対し、先手池田の居飛車穴熊。アマの対局ではもっともポピュラーな戦形になる。42手目後手から△55歩▲同歩△同銀▲56歩△44銀と一歩交換する。先手は桂を37に跳ねて、後手が銀を繰り替えているうちに飛先を突き捨て4筋から逆襲し、59手目▲24飛と走った局面は先手が良い。その後、後手も先手玉を穴熊から引きずり出したが、銀を自陣に投入して飛車交換を果たしたので攻め駒不足となり、苦しい。90手目△49飛車と銀取りに打ち込まれたが放置して▲53桂成が鋭い。△73金と逃げると、今度は▲95歩と端を攻める。これが見た目以上に厳しく、97手目▲61馬△同銀と進み▲93銀と打ち込む鮮やかな寄せを見せてくれた。

【三将戦】棋譜鑑賞

 三将戦は本日一番の好取組、ジュポン渡辺健弥は97年のアマ竜王でずっと強さを維持しているばかりかどんどん強くなっているようだ。3月には結婚をするというハッピー状態だ。
 対する立命の主将加藤幸男は平成最強、学生名人など学生界のみならずアマ棋界のトップクラスで注目の若手である。理工学部の3回生でどこに就職するかでアマ団体地勢図の趨勢を左右するほどの大器である。一昨年、王座戦史上最多勝をあげながら明治に苦杯を喫した立命は加藤主将の下、チーム一丸となって研鑽に励み、他チームの棋譜研究もこなし勝ち点を確実にあげられるチームに変身した。
 後手番渡辺は最近あまり見かけることの少ないつの銀中飛車を採用した。先手加藤は居飛車穴熊に囲う。戦端は38手目△24歩で開かれた。2筋の小競り合いが一段落したところで後手は玉側の桂馬を攻めに参加させるべく△65歩と突っかける。なるほどつの銀というのは、こうやって攻めるものかと見ていると、先手は▲65同歩と応じ△65同桂に▲68角△57桂成▲同金と攻め込む。そして9筋に綾をつけてから△48銀と打つ。やや穴熊玉には遠く間に合うのかなと心配になる。ここからの先手は冷静だった、48銀の桂取りを放置して▲88銀と穴熊の整形をする。銀の丸損となるが角交換をして敵の薄い玉頭に狙いを付ける。
 両者の手順を見ていると盤上狭しとあちこちに駒が舞い、その流れの見事さにうっとりしてしまう。72手目△46角と攻防に打つ。その瞬間▲23歩成をきかせ、△同金に▲64歩と銀の頭をたたく。△同銀にもう一つ▲65歩とたたく。本譜は△73銀と引いたが▲64桂△同銀▲23飛成△同飛▲64歩△52銀に▲65金と進撃し以下華麗に寄せきってしまった。△73銀と引く手で、△28角成と飛車を取って攻め合いに行けば後手にも勝機はあったように思う。

【副将戦】棋譜鑑賞

 ジュポンの鈴木貴幸は01年の学生名人戦で優勝し、社会人になったばかりのフレッシュマンだ。
 立命の福井善博は文学部2回生で、高校時代に朝日アマの近畿代表になっている。
 後手福井の四間飛車美濃囲いに対し、先手鈴木は左美濃で応じた。先手は3筋で歩の交換をし、その1歩を使って9筋で▲95歩△同歩▲93歩と垂らす。角の援護射撃で、9筋の香交換もしてしまう。今度はその香車を2筋に使い飛車が敵陣に成り込んだ。後手も飛車を龍と交換し防戦するが歩切れをつかれてと金攻めをくってしまい、そのまま土俵を割ってしまった。

【大将戦】棋譜鑑賞

 ジュポンの大将は95年96年と連続アマ竜王に輝いた桐山隆。今年度も支部名人に輝いた。宇都宮工場を青柳と二人で切り盛りしている。
 立命の大将は武田俊平。アマ王将、アマ準名人と大活躍だ。王座戦で3年連続全勝し27連勝を記録した。この4月からは同じリコーの仲間となる。期待の大型フレッシュマンだ。
 先手武田の四間飛車に後手桐山は居飛車穴熊に進む。先手は、美濃囲いから銀冠に組み替えて、穴熊攻略を目指す。後手は44手目に6筋から戦端を開いてきた。飛車が向かい合っての押し合いへし合いは見ていて面白い。▲57銀と引き△55歩と攻めて先手がややへこまされている感じがする。しかし、銀桂交換に甘んじた後、2筋で綾をつけ▲15桂と打ったあたりは先手有望に見える。後手桐山は102手目△49角と攻めていったが▲42金と飛車取り金取りに打たれ△同金は▲23桂不成で詰んでしまうので、激痛だった。後手は76に馬を据えて攻防を睨み頑張るが先手は着実に寄せきった。

【学生代表壁を崩せず】

 結局ジュポン化粧品が4勝3敗で、優勝を決めた。昨年に続き2連覇は立派なものだ。これで社会人側の9勝6敗となった。学生側はレギュラーが一人かけていたのは厳しかったが、ジュポンは層の厚さを見せつけた。ここ数年の社会人チームの充実ぶりは目を見張るものがある。
 武田、加藤と2枚看板のそろった立命を持ってしても社会人チームの壁を崩すことはできなかった。しかし、学生チームも年々新しきホープがぞくぞくと加入してくるので、これからの巻き返しを期待したい。

(完:記03年2月23日)

(改:03年2月25日)


 ジュポン化粧品 選手の感想  立命館大学 選手の感想
 第15回の結果(2003年2月15日)

     【ジュポン化粧品】4 − 3 【立命館大学】
 大 将    △ 桐山 隆   ● − ○  ▲ 武田 俊平
 副 将    ▲ 鈴木 貴幸  ○ − ●  △ 福井 善博
 三 将    △ 渡辺 健弥  ● − ○  ▲ 加藤 幸男
 四 将    ▲ 池田 将   ○ − ●  △ 熊野 剛
 五 将    △ 渡邉 徳之  ○ − ●  ▲ 君島 俊介
 六 将    ▲ 青柳 敏郎  ○ − ●  △ 鈴木 雄貴
 七 将    △ 上岡 淑郎  ● − ○  ▲ 桜井 英孝
 過去の結果
 社会人代表勝敗学生代表
第1回リコー−1東京大学
第2回リコー−2早稲田大学
第3回東芝3−京都大学
第4回リコー−2東京大学
第5回リコー−3東京大学
第6回アルゴリズム研究所3−東京大学
第7回富士通−3東京大学
第8回リコー−2東京大学
第9回プロセス資材3−早稲田大学
第10回リコー3−東京大学
第11回リコー−2早稲田大学
第12回リコー3−慶應義塾大学
第13回プロセス資材2−立命館大学
第14回ジュポン化粧品−3明治大学
第15回ジュポン化粧品−3立命館大学
9−6

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