第13回社会人リーグ団体戦 第3日
〜〜〜1軍9勝、2軍5勝、3軍3勝〜〜〜
年月日:2002年9月15日(日)10時〜5時
場所:港区「東京都立産業貿易センター浜松町館」
【マニキュア美人】
犬も歩けば棒に当たる。我が輩も電車に乗れば美人に当たることもある。敬老の日、どんより曇った朝、電車で浜松町に向かう。半袖は少し寒かったかと、回りの半袖と長袖の比率を見ると、7割以上が長袖だ。将棋の試合の朝、付け焼き刃の詰将棋トライアルが定跡化してしまった。とうとう「将棋世界」も詰将棋をわずかに解くだけで、お蔵入りするようになった。幸い「あっという間の3手詰」は、本当にあっという間に無事通過した。次の5手詰めに進み、1問目から引っかかってしまう。
ふうと顔を上げると、ジーンズの帽子とジーパンが見えた。スタイルも顔も素晴らしい女性が向かい側に座ろうとしている。じろじろ見てはいけないと思いながらも、解けない詰将棋よりもこちらに魅入られてしまう。なにしろ、Gパンの裾にスリットが入っているのだ。その足を膝の上に組んだ。スリットの一番上は赤い糸でくくってある。スリットの隙間からかすかになま足首となまふくらはぎが見えるので、目は釘つけになってしまう。紺色の帽子のつばには黄色のステッチが同心円状にはいり、ところどころに、ペンキの流れ弾のようなのが白いアクセントになっている。やや目深にかくされた顔は、細面で、形のいい部品がきれいに並んでいる。化粧はファウンデーションだけといった趣で、紅さえほとんど引かれていないようだ。帽子からわずかにはみ出しているショートの髪は流行の茶系だ。ヘッドホンのヒモが見える。たまに身体がリズムに揺れたりする。グレーの半袖Tシャツは、細身の身体なのに豊作だ。「暗夜行路」に出てくる豊作だ。20代は過ぎているだろうな。
【1軍は3勝し、優勝戦線に踏みとどまる】
社団戦というのは、どういう団体でも良い、いわばチーム構成は何でもありの世界だ。団体戦だけに個人の意志を判別するフィルターのような面もある。1軍でなければ出たくないとか、こっちではなくあっちで出るとか、自由を謳歌しているものもいる。楽しい反面、チームをまとめる立場によっては煩わしくもある。
今年のリコー1軍は学生出身の強豪うまくんが加入し、更に来年入社が内定したしゅんぺいも加わって、力強い。この日も難敵が続くなか、1回戦は東工大OBチームに6勝1敗で勝ち好調であったが、3回戦でNECに痛い一発を食らって、この日は3勝1敗となった。通算9勝3敗で3位につけているが、優勝は11勝1敗の翔風館TLSとくるくるに絞られたようだ。リコー1も他力ながらわずかに優勝の目は残っているので、最後まで、粘っていきたい。
それにしても、一部リーグで強豪がそろう中でうまくんが11勝1敗とは快調だ。間近に迫った職団戦での活躍を期待したい。
【2軍は】
二部ともなると、どこのチームにも名の知れた強豪が2〜3人はいる。リコー2軍にも、何故か今年は谷川や佐々木が居る。それでも、簡単には勝てないから、社団戦はいかにレベルが高いかわかる。初戦の相手は蒲田大嘉で、むこうにも石井豊氏、西山実氏、鈴木貴幸氏といった強豪がごろごろしている。結果は、3勝4敗で負けてしまった。結局この日2軍は1勝3敗で通算5勝7敗と11位になってしまった。9位から13位は入れ替え戦となるので、最終日、うまく勝ち星を重ねて入れ替え戦は避けたいものだ。
個人では宮田が8勝4敗と健闘しており、佐々木修一の6勝2敗も復調の兆しが見えてきた。秋の職団戦に間に合うかどうかぎりぎりの所だ。
【3軍は2勝2敗で、通算3勝】
去年の3軍は結果が出なかった。だから今年は3軍の建て直しをしようと思って、自らGMになった。3軍は昨年成績が悪かったから四部に落ちていると思ったのだが、チーム数の関係か三部に残っていた。社団戦はレベルが高いので、非情と知りつつOBの方方に遠慮していただいた。社団戦を楽しみにしている熱心な方には申し訳ないのだが、やむを得ない。若手を育てたいという思いもつよい。エースがいないという苦しい台所ではあるが、力を合わせればなんとかなるだろうと思っていた。
ところが、初日の直前に、私の義母が病で亡くなってしまったので、初日に出ることができなくなってしまった。更に二日目もよんどころない用事で途中までで、帰らなくてはならなくなった。これでは、GMの意味がない。二日目を終わって、チームは1勝7敗で15位とブービーメーカーだ。しかし、まだ残り半分あるから、3日目から再度頑張ろうと作戦を練った。
対戦相手を見るといずれも強豪ばかりだ。リコー3軍には県代表クラスの実力者が居ないのが痛い。大将にどっかと座ってくれるものがいれば組み立てやすい。来年は誰か立候補してくれえええ。とまれ現有戦力で、一番勝てる可能性が高いと思うオーダーを組んだ。名付けて期待値戦略だ。相手も、必ずしも強い順というわけではないのだが、おおむね作戦は当たり、結果は、2勝2敗と五分にできた。
しかし戦略や作戦よりも、勝利に貢献したのは、なんといっても竹中の光る4連勝だ。通算でも10勝2敗と活躍している。インターネット対局を1000局クリアしたというのも実力アップにつながっているようだ。
【3軍1回戦:対立教大学紫龍会】
名付けて「恐面作戦」。どういうオーダーを組んでも勝てる確率は低い。立教大学のOBチームだが、雑誌「近代将棋」の編集長の中野さんや、将棋ライターで、現在NHKの将棋講座に連載している椋露地さんが居る。プロの将棋を毎日見ている人たちだ。
そこで迷将は、盤外作戦に出た。盤上での勝負は、勝ち目が薄いから盤外で勝負をしよう。それには、顔の恐ろしいものを両サイドに置いて挟み撃ちにしよう。
しかし、将棋はたいがい盤を見て指す人が多い。羽生にらみをする人がいればそのときこそチャンスなのだが、どうだろうか。わずかに片側では効果があったようだが、甘いマスクの多い3軍では余りよい作戦ではなかったようだ。敗着はGMの幼稚な作戦にあった。当然のように1勝6敗と惨憺たる戦果だ。しかし敵はこの日トップに躍り出たチームだから、1勝でも快挙だ。
自分の将棋は先手ながら四間飛車となった。相手は門脇さん。局面は▲67銀、▲56歩、▲38飛、▲98香型に対し、△53銀右から△64銀と出て、△75歩、△55歩となったところが30手目。見たことがあるような、無いような、思わず長考してしまう。結局▲55同歩△同銀と進んだが、今考えてみると、▲65歩△同銀に▲55歩が、落ち着いていて良さそうに見える。いずれにしろ、この30手目の図は私の課題図ファイルに入りそうだ。
結局この辺からの20手ほどに時間をつぎ込んだが、飛車の捌きに失敗し、桂損の分かれとなり、勝負所を無くしてしまった。感想戦で、門脇さんの指摘によると、途中で後手が△74飛と浮いたときに、▲95角と出る手があったという。なるほど、なかなかの勝負手だ。
【3軍2回戦:対日大桜門会】
昼休みを挟み、2回戦は12:30頃から始まった。相手は4人しかいないという。慌ててオーダーを組み替えた。「当て馬作戦」のつもりだったが、「一点突破」作戦にした。ただし、若手を休ませるのはもったいないと思い、自分の所には、「1.5軍の逆襲」チームにも出て頑張っている平田を入れた。どちらにしても4人とも簡単には勝てる相手ではないと思ったが、好調竹中頼りの一点狙いだ。
途中、18分経過したところで、5人目が現れた。5将には水山を入れてある。不戦勝気分で居るところに突然相手が出てくると嫌なものだが、彼は淡々と指していた。甘いマスクの割に剛胆な奴だ。ここは時間のハンデがあるからなんとかなるだろうと読む。
大将戦は先手桜門会増田氏対リコー吉中。この二人に、豪華観戦記をプレゼントしよう。
吉中は、ベージュのコットンパンツに、鶯色の半袖シャツ、機能が沢山付いた腕時計をしている。レモンウオーターを飲んではテーブルの上に両肘を置いて真剣な眼鏡が盤を睨んでいる。手で顔をこすったり、頭をかいたりする仕草から「ネアンデルタール人に似ている」と見たこともないのに勝手に思う。ひじを張ると、日焼けした腕と対照的な白い腕が半袖の下から出てきてなまめかしい。人のことを言える身分ではないが、腹に食い込むベルトが痛ましい。
増田氏はブルーの半袖シャツにベージュのコットンパンツで、ゼッケンのピンクが精悍な顔に映える。腕時計は、お洒落な感じのものをしている。ちなみに私は最近腕時計を止めてしまった。去年の社団戦の賞品が懐中時計だったことから、それなら携帯で間に合わせてしまえと、腕時計を外したのだが、私の携帯時計は1カ月に数分進むのが困る。
増田氏は背が高いのだろう、やや猫背になり、前屈みで盤を睨む。テーブルの下で、右手と左手とが鬼ごっこをしている。
後手吉中の四間飛車に対し、先手増田氏は▲57銀右から▲46銀と出ていく。時計は双方残り時間が26分、・・・23分と同じように減っていく。ところが▲46銀と指した辺りで、増田氏は時計を押すのを忘れている。敵のチームながらいつ気がつくかとやきもきしていると、以心伝心したのか、3分ほどで気がついた。
増田氏は駒を打つときにぽちょんと打つ。指すときも静かにすーっと指す。局面は、後手四間飛車側が作戦負け臭い局面だ。吉中の口から苦しい叫びが漏れた。更に△46歩と飛車先の歩を突いた手がやや指しすぎのようで、▲同歩のあと、幸便に▲45桂と活用されて、一方的になってしまった。本人のたっての希望もあり、おそらく野山の厳しい棋譜チェックの網もくぐることはできないだろうから、せっかく採った棋譜だが、没にするしかない。
竹中がきっちり勝ち、水山も強敵を倒して、不戦勝2を入れて、ぎりぎり4勝3敗の勝ちとなった。チーム通算2勝目は実質この二人の活躍によるものだ。
【3軍3回戦:対駒沢大学OB会】
今度は「雁が飛んでいく」作戦にした。中央から両翼に向かってきれいな三角形を描く渡り鳥の構図だ。この隊列なら、メンバーは誰が勝たなくてはいけないかすぐにわかる。それがプレッシャーになったのか、すこうし目論見が外れて、3勝4敗の惜しい負けを喫してしまった。
自分の将棋は先手で対四間飛車斜め棒銀戦法で、もっとも好きな形だ。▲24歩の突き捨てを入れて、▲38飛と回る例の奴だ。それなのに途中で、定跡を外してしまったが、相手もつきあって外してくれたので、望外の▲54角成と、要所に馬ができた。それなのに、△43金と角を追い払いに来たとき、例の豪快な▲35飛車切りが見えず、▲65馬などとひよってしまったために、泥沼にはまってしまった。それでも、ごちゃごちゃやっている内に、何とか逃げ切ってしまった。
しかし、将棋も真剣に指すと胃袋の辺りがザワザワと痛くなってくる。それも、その時々で、症状が違う。今日の貿易センタービルには他のフロアでコスプレの大会か何かがあるらしく、派手な衣装の若いお嬢様達が大勢居る。彼女たちはコスプレを楽しむときに、やはり胃が痛くなるのだろうか。
【3軍4回戦:対ナイス棋友会】
今回は、相手が6人だったので、「一人時間差」作戦を選ぶ。詳しいことは書けないが、しばらくすると、自分でもどこが時間差なのか忘れてしまうかも知れない。結果的に絶妙の当たりとなったようで、不戦勝を入れて5勝2敗となった。
自分の将棋は、先手で対四間飛車となり、やはり急戦にしたが、相手は△32金で対抗してきたので、またも長考を強いられた。2筋〜4筋の折衝は押し込まれて不利だと思っていたのだが、意外に悪くなかったようだ。結局2勝1敗1不戦勝と久しぶりに社団戦で勝ち越した。でもまだ借金が残っているので、早く返さなくてはならない。
それにしても、選手兼GMというのは、しんどいものだ。短い休憩時間に対局に疲れた頭を休めるまもなく、微妙な暗算をしながら、好不調の顔色も読まなくてはならない。今回初めて期待値という考え方を作って試してみた。期待値以上に戦果を出したのが、水山、平田、竹中に各1局ずつあった。これは、存外うまくいきそうだ。とはいうものの、メンバーの一人一人が、勝ってくれないことには、どうにもならない。次回からも期待を裏切らないように、みんな力を合わせていこう。くれぐれも、美しい女に見とれたりしないで、ちゃんと詰将棋を解くことだ。
(完:記2002年9月19日)