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2009年度冬合宿レポート

年月日:2010年1月23日〜24日

場所:神奈川県箱根町「カフェテル箱根」

リポータ:星出 明

 合宿委員を担当して早10年になろうとしており、自分なりの何かを残そうと数年前から改革に乗り出している。まずは場所、いろいろ探してはみるもののなかなか合宿条件を満たす宿は見つからず、結局使い慣れた杉の宿に「逃げる」という展開がここ数年続き、さらに今年度の夏合宿は日程の折り合いがつかずに中止。これではいかん、と1年振りの合宿は多少の条件は目をつぶって「冒険」してみようと本腰を入れて新しい場所を探した。
 合宿検索サイトを駆使して数ヶ所の候補を探し出し、主将を連れて割と近接する3ヶ所を下見に訪れた。どれも甲乙つけがたい趣のある宿だったが、一番協力的で融通が利きそうな(打ち合わせでケーキが出たのも大きなポイント(笑))「カフェテル箱根」を今回の合宿場所に選択した。
 次に目をつけたのが昼の部。折角遠方の観光地に来ているのに昼間から時間を拘束され本当に楽しんで頂けているのだろうか?もう少し自由な時間が欲しいのではないだろうか?
 そう思って何名かの方にアンケートを採ったろころ、意外にも従来の4局のリーグ戦を支持する回答が圧倒的多数を占め、心配は杞憂に終わった。合宿委員に気を遣って頂いたのかもしれないが、皆さん本当に将棋が好きであるという事が分かった。
 また以前採ったアンケートで、「外部の人が多すぎて何の合宿か分からなくなってきている」という意見がちらほらあり、宿の人数制限にも便乗して今回は外部の人をシャットアウトし、純粋にリコー将棋部員のみ(師範の屋敷先生を含む)の合宿を試みた。

【一日目】

 初めての場所という事で不安を抱えつつ当日を迎える。今回は初のマイカーでの参加。日頃お世話になっている谷川さん、豊岡さん、大室さんが乗車し、予定時刻より相当早く宿に到着。宿に盤駒は2セットしか置いてなく、チェスクロックは無い。全て部の備品を持込。3名の協力を得て会場設営に取り掛かる。
 そこに重大な事件発生。駒が数箱足りない…。パニックになりながら近隣の店を探すが将棋の駒なんてそうあるものではない。御殿場のおもちゃ屋に行きかけたところで、宿の管理人に無理を言って近くの別の宿から借りることがたという連絡が入った(結局駒は後で見つかった)。
 また、私の準備段階でのミスでAクラスはチェスクロックが4個しかないという大失態。
 その他、畳なので野山さんの足が辛い、風呂が温泉ではない、浴衣が有料(サービスで無料に)、布団敷きがセルフサービス等々これまで当たり前の事としてスルーしていた問題が次々に浮き彫りになってくる。

【昼の部】

 バタバタとしつつも何とか開始にこぎつけた。細川の司会で主将挨拶、ルール説明と滞りなく済ませて対局開始。
 自分の将棋で申し訳ないがポイント解説。

一回戦 対宮田戦

 矢倉で後手番ながらうまく戦機を捕らえたつもりだったが、先手の強気の受けで角と桂香の二枚替え程度の戦果しか挙げられず、
 逆に猛攻を浴びてタジタジ。△1八歩成は▲1三角で怖い。ここで△2五桂として逃げ道を開ける。以下▲3五角△1八歩成▲5一角△4八飛▲7八香△4九飛成▲6七金。

 ここで△9四飛と逃げたのが我ながら落ち着いた一手。
 以下▲1四歩△4二銀▲1三角成△3三玉とオアシスに逃げ出す事ができ、狙いの△9五桂が実現して何とか勝ち切る事ができた。

二回戦 対細川戦

 プチ流行の△3三角戦法だがいざ指されるとドキッとする。▲6八玉は△2二飛なら▲3三角成〜▲6五角を狙った手だが、こう上がるなら先に角交換しなければならなかった。
 ここから△3二銀▲4八銀△8四歩▲3三角成△同銀▲8八銀△9四歩。細川といえば右玉しか頭にない私は▲9六歩と受けたが指す瞬間に嫌な構想が見えたが、まさかやってこないだろうと思った。だが彼はやって来た。△8五歩▲7七銀△7二銀▲7八金△8三銀!

 そう、棒銀で来られて▲6八玉の形が近すぎる上にこちらから攻める形が全く無い。元々の実力差がある上にこれほどの作戦負けを喫してはどうにもならない。
 細川の意外な序盤巧者ぶりに感心してしまった。

三回戦 対伊藤戦

 先手左美濃+▲3筋歩交換対後手早囲いから、お互い全く妥協を許さない叩き合い。いつもながら読みが全く合わないまま図の局面を迎える。△2六金は伊藤らしい手だがさすがに悠長すぎた。ここで▲6五角が狙いすました一着。以下△5四飛▲4四桂△同金▲3四銀!△4二桂▲6六桂△6四歩▲5四桂△6五歩▲4二桂成△同角▲3三歩△同角。

 秒読みでフラフラになりながらも必死に攻めを繋げていく。ここで▲6三飛△4三桂▲3五桂が会心の寄せ。練習も含めて初めて勝つ事ができた。

四回戦 対山内戦

 今リコー将棋部で一番ノッている男、山内との対戦。この日も野山さんと主将を破っている。山内の相掛かり引き飛車棒銀を受けて立ったものの、角交換となってこちらだけスキだらけ。泣きたくなるような作戦負けだったが、スキを一つずつ消していくうちに何とかそれなりの形に組み上げる事ができた。

 ここで▲7五歩が驚きの一着。△8六歩▲同歩△同飛▲8七金△6六飛と十字飛車をかけさせて▲6七歩と飛車を捕獲。
 以下△8六歩から飛車と金銀の二枚替えとなるが、後手は飛車打ちのスキだらけ。卓越した大局観に舌を巻いた。

 入玉を巡る攻防が続き、ここから△7四金。▲同馬に△9三桂〜7四銀の予定が王手飛車に目がくらんで単に△7四同銀。
 ここで▲8四玉と逃げられるのをうっかり。もう入玉は防げない。仕方なく△6三銀左だがここで事件が起きる。

 9一飛成で何でもない。一瞬△7三角〜△6四角というカッコいい手があると思ったが、何とその瞬間玉の素抜き!
 だが指し手は▲6五歩。何と山内も同じ読み筋で負けと判断し素抜きをうっかりしていたらしい。
 以下△7二銀▲4一飛成△8三銀引▲8五玉△7四角と結局王手飛車がかかってしまった。これだから将棋は分からない。

 優勝は当然ながら屋敷先生。合宿ではたまに取りこぼしもあるがこの日はきっちり4連勝。準優勝は細川。その細川に唯一土をつけたのが谷川さん、往年の実力を発揮した。
 桑山も野山さんを破る殊勲の星。努力の人杉本さんも1勝を挙げ、竹中さんが自分の事のように喜んでおられた。
 それにしても凄まじい星の潰し合いで過半数を上回る8名が2−2という大混戦。お陰で私も奇跡の3位入賞を果たすことができた。
 Aクラスは別室での対局。チェスクロックの無い対局も運営の事を考えていただいて読み上げの秒読みはゼロ。皆さんの大人の対応に大いに助けられた。
 実力的に勝又さんが固いかと思われたが、宮崎さんに乱戦に持ち込まれまさかの黒星。合宿常連で盛り上げキャラの宮崎さんだがやる時はやる。よほど嬉しかったのか、帰り際リーグ表を記念に持って帰ってしまった。
 庭野さんは本人もおっしゃっていたが浮かず沈まずでずっとこの位置をキープしている。定年されて6年になるが、本当に頭が下がる思いだ。
 こちらも上位5名が3−1という大混戦。優勝は筋違い角の名手室井さん。あらゆる変化に精通していると言われ、その指し回しにこの日も多くの人が絶賛していた。

【夕食】

 夕食の時間が近づき、レストランに移動。ビュッフェ形式となっており、テーブルの上においしそうな料理が並ぶ。直前の無茶振りにも快く引き受けて下さった野山さんによる乾杯の音頭、「女性が一人もいないのは寂しい。」と、らしいコメント。
 皆一生懸命将棋を指して腹が減ったのか、我先にと一斉に料理に群がる。私はしばらく様子を伺い、人が少なくなったところを見計らってよっこいしょと腰を上げる。が、そこに料理はほとんど残っていなかった!同じテーブルの庭野さんが気を利かせて多めに料理を取って下さっていたのでかろうじて飢えを凌ぐことができた。料理は概ね好評だったようだ。
 さて、今回のイベントは豊岡さん、竹中さんの定年祝い。豊岡さんは長年宴会部長として、竹中さんは社団戦の世話役等で将棋部に大いに尽力されてきた。記念品贈呈の後挨拶。竹中さんは「隠しておくつもりだったが、リコー内部のニュースに載ってしまいバレてしまった。」と照れくさそう。豊岡さんは今後趣味のカメラの目利きで商売をされるそうだ。

 宴もたけなわで人もぽつりぽつりと居なくなってきた頃、野山さんに私が最近密かに勉強中の「対振り飛車野山棒銀」の一変化について質問。
 すると、「普段は他人に教えないが、今は酔っぱらっているから」と対局室で膨大な変化を事細かに解説して頂いた。途中から主将と藤原さんも加わり、三人で感心しきり。野山棒銀の歴史の一部を垣間見ることができ、大収穫となった。
 そんな中、同じ部屋で1987年第二回アマプロ戦で谷川さんが羽生四段(当時)を破った棋譜の鑑賞会が行われていた。これは豊岡さんのリクエストによるもの。今観ても全く色あせない終盤の切れ味に一同感嘆の声が漏れる。

【夜の部】

 今回夜の部は基本的に自由対局。相手が見つからない方のために道場形式で「手合いカード」なる物を作成し、希望者に手合いをつけていくという趣向。
 ただ、リコー将棋部員のみの合宿ではそのような心配は必要なかったようだ。1〜2局使って頂いた人もいたが、後はそれぞれ自身で相手を見つけて指していた。
 そのうちに夜食のおにぎりが登場。それのまぁ美味いこと美味いこと。塩加減が絶妙で米がぎっしり詰まっている。こちらの宿の管理人は冬場は二人で切盛りしておられ、度重なる無理なお願いにも嫌な顔一つせずに対応して頂いた。きっとこのおにぎりも愛情を込めて作っていただいたに違いない。
 風呂に入ろうと部屋に戻ると、鈴木さんが布団を敷こうとしていた。鈴木さんは数年前からなかなか言う事の利かない身体になられ、それでも将棋部の行事にはほとんど参加されている。私の方で鈴木さんの布団を敷いて「ゆっくりお休み下さい」と部屋を出る。ほどなくして風呂から戻ってみると、何と鈴木さんが「自分のだけじゃ悪いから」と全員分の布団を敷こうとしていた。慌てて「私の方でやります!」と静止したが聞く耳を持っていただけず、結局二人で全員分の布団を敷き終えた。ちょっと感動した出来事。
 対局場に戻ると、やはりというか宮崎さんから二枚落ちの挑戦を受ける。Aクラスで3勝の実力者で普通に考えれば勝てるはずもないのだが、いつも通り熱くなりすぎて圧勝。ここ数年負けてない気がする。
 その後大室さん、土肥さんとも二枚落ちで指した。お二人ともうろ覚えの定跡ながら自力で鋭い攻め筋を披露し、後一歩まで追い詰められたが、勝利のお土産は次回以降の楽しみに取っておいて頂いた。
 指しているうちに昨年8月に他界した父の顔が浮かんできた。父は駒落ちの名手で、二枚落ちも随分教わった。ここのところ神がかり的に調子がいいのは見えない力の後押しがあるのかもしれない。

 気の合った仲間と真剣に将棋を指す者、10秒将棋で奇声を挙げる者、おにぎりをほおばりながら楽しそうに観戦する者、はたまた麻雀卓を囲んでじゃらじゃらやっている者、それぞれ思い思いの時間を過ごしながら夜は更けていく。
 午前1時を過ぎ、そろそろ睡魔も限界近くなって部屋に戻ることに。私はいびきがうるさいこともあり、ドラえもんよろしく押入れで寝ることにした。

【二日目】

 一日目に引き続き雲一つない快晴。近年は暖冬で雪もほとんど心配ないそうだ。朝食はまたもやビュッフェ形式。早起きした者が得をする。
 西田さんと相席になり、最近の体調のことなどを話していただいた。吉中さんは思いつきでコーンフレークをヨーグルトに入れていたが、微妙だったようだ。
 そのうちに、牧野さんが颯爽と登場。観光のためにわざわざ車で駆けつけてくれた。朝食もごく自然に溶け込んで食べていた。

【表彰式】

 賞品は毎回ながら馬上に調達してもらっている。今回は全てサイン本という豪華ぶり。
 肝心の細川の右玉本がないのは「うっかり忘れてしまった」とのこと。細川は貴重な1冊の売り上げを逃し、嘆くことしきり。
 私も久々に賞品をゲットできた。最近は良さそうな本が実に数多く出版されていて財布が厳しくなかなか買うことができないので素直に嬉しかった。
 Sクラスが大混戦で3勝以上が3人しかいなかったためAクラスは0勝の豊岡さんに至るまで全員に賞品が行き渡った。
 こうして、いろいろあった今回の合宿は幕を閉じた。今回は久しぶりの箱根ということで、会計を前日に済ませ、観光の時間を多めに作ったのがちょっとした工夫だったが、後かたづけでバタバタしているうちに結局昼近くになってしまった。

 さて今回の合宿、いつも以上に主将を始め多くの方々に助けられ、リコー将棋部の繋がりという物を感じた。
 苦労は多かったが、一から作り上げた合宿は充実感もあった。世の中はとかく「改革」という言葉が飛び交っているが、このような小さな組織でさえ何かを変えようとする事は本当に大変。継続して守っていかなければならない事もある。
 これからも皆さんの意見を積極的に取り入れ、新しい事にチャレンジして行きたいと思う。


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