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イベント・レポート

第21回リコー杯アマチュア将棋団体日本選手権

〜〜〜東京大学が二連覇〜〜〜

年月日:2009年2月21日(土)

場所:東京都大田区「リコー大森会館」

主催:株式会社 リコー

後援:日本将棋連盟、朝日新聞社、週刊将棋、全日本学生将棋連盟

レポーター:馬上 勇人

【第21回リコー杯アマチュア将棋団体日本選手権】

 「まるでプロのタイトル戦のような緊迫した雰囲気でした。」局後、屋敷伸之九段がおっしゃっていた。社会人と学生による意地と意地のぶつかり合い。一年に一度の「負けられない。」戦いだった。
 この大会はリコーの創立50周年を記念して創設された社会文化貢献事業の一環として1989年にスタートし、今年で21回目を迎える。
 今回の社会人代表は職団体戦春優勝、秋準優勝のリコー(2年ぶり10回目)。学生代表は冬の王座戦を全勝優勝した東京大学(2年連続10回目)で日本選手権最多出場同士の対戦となった。
 今年は併設会場で屋敷九段、朝日杯で優勝したばかりの阿久津主税六段、NHK講座でお馴染みの熊倉女流1級による大盤解説会を実施し多くのお客様にご来場頂いた。
 開始前、日本選手権独特の緊張感が漂う。熊倉女流1級の振り駒の結果、東京大学の奇数先に決まった。
 当たりはリコー−東京大学の順で大将から山田洋次―高橋淳、野山知敬―阿部晃大、細川大市郎−重野和彦、武田俊平―武内譲司、馬上勇人―谷崎生磨、伊藤享史―山口大志、山内祥敬―田中明郎。
 対局が終了した順番に振り返ってみたい。

【五将戦 角頭歩戦法炸裂】

 はじめに終わったのが馬上―谷崎戦。谷崎くんの先手で始まったこの将棋は▲9六歩△3四歩▲8六歩!△8四歩▲7六歩と谷崎くんの角頭歩戦法。なんとも挑発的な構えだ。ここで私は熟考10分。「団体戦という状況で相手の研究に向かっていくのは得策ではない。だが、ここで行かなければ男ではない。みんな、スマン。行かしてくれ。」という結論に達し△8五歩!以下大乱戦となった。

 ここで△8五飛車と打てば指せるというのは当初の読み筋だった。だが、▲7五角と打たれると容易ではないことに気づく。そして予定変更で△8九飛車と指すが▲8四飛車△7七角▲4二玉△8八と▲8一飛車成△7九と▲8九飛成△同と▲5三桂不成と進んだ局面は王形の差があり後手が不利。以下は正確に指されて届かなかった。無念!

【三将戦 元学生王将対決】

 細川は安食総子女流初段の旦那さんで右玉が得意なアマ強豪として有名だ。
 開始前にスーツの上着がないと会場を探していたが、よく考えると家から着てくるのを忘れていたらしい。あくまでマイペースだ。重野くんは今年度の学生王将。
 細川の中飛車に重野くんは左美濃で対抗するが序盤からペースを握った細川が優勢になる。

 ここから△6五桂▲6六歩△5七桂成▲3五角△5六歩▲5八銀△同成桂▲同飛△5七銀と快調に攻め続けた細川がそのまま快勝した。
 「元学生王将の細川さんと対戦できて嬉しかった。」と重野くん。「序盤から悪くならないように時間を使ったのがよかった。」と細川。これでリコーが1勝を返した。

【副将戦 貫禄の勝利】

 阿部くん得意の角交換型振り飛車穴熊(通称レグスペ)に対して野山は積極的な攻めから優勢を築く。

 ここで▲5六銀が決め手。△3九銀▲4七銀△2八銀不成▲6四歩△同金▲同馬△同歩▲5四角△7六歩▲7二角成△同金▲7五香△7七歩成▲同金右△7三歩▲3二飛車と進んだ局面は後手の3四と2八の銀2枚の遊び駒が痛く、先手勝勢だ。以下も緩まず攻めを続け野山が快勝した。野山は鋭い踏み込みで2年前の立命館大学 稲葉聡戦に続く貫禄の勝利。「野山さん強すぎます。」と阿久津六段。これでリコーの2−1。

【六将戦 玉の空中遊泳】

 山口くんの三間飛車に伊藤は得意の棒金で対抗。先手の角銀交換の駒得だが玉型がなんとも不安定だ。

 ここからの山口くんの攻めが巧みだった。△3七銀▲同桂△同歩成▲2六飛車△2五歩▲同飛△6四桂▲6五玉△6三金▲7五歩△8四飛車▲7九桂馬△6七歩成▲同銀△5四金▲6六玉△6五歩▲7七玉△5五銀。
 途中の△6三金が好手。最終手△5五銀により攻めの厚みが増した。
 実際はまだ難しかったが攻め続けた山口くんが勝利を収めた。山口くんは昨年のNEC戦の勝利に続く大きな一勝をチームにもたらした。「チャンスはあったが掴みきれなかった。」と伊藤。

【七将戦 先輩後輩対決】

 山内は東京大学の出身で3年前には日本選手権に東大として参加。見事に勝利を収め優勝に貢献した。田中くんは3回生。オールラウンダーでなんでも指しこなす。
 本局は田中くんの四間飛車に山内が居飛車穴熊で対抗。

 図は田中くんの攻めが一息ついたところで山内が反撃に出た局面。ここから△3六歩▲同金△6九角▲4二馬△同銀▲8二飛車△3一銀打▲8一飛車成△5八角成▲同金△6九飛▲5九歩△8九飛車成▲3四桂と進む。△3六歩〜△6九角が自然なようだが解説会の阿久津六段によるとよくなかった。△6九飛車に▲5九歩の底歩が固い。かわりに△4六銀と上から抑えれば有望だった。本譜はこの後も際どい展開が続いたが端の広さを生かした先手が勝ちきった。これで東大の3−2。

【四将戦 揺らいだ心】

 絶対にくじけない男。それが武田。2年前の日本選手権で敗れた際に「大変悔しいがここでくじけたら武田俊平ではなくなる。」と放った一言は、あの渡辺明竜王をして印象に残ったといわしめた名言だった。武内くんは東大の次期主将。
 武田の先手で始まった本局は中盤の入り口で千日手に。指し直し局は武内くんの四間飛車に武田の左美濃で対抗。飛車交換が行われ迎えたのが図の局面。ここから武田が暴走する。

 △1五歩▲同歩△1七歩▲同香△1六歩▲同香△1七歩▲2七銀△7八馬▲同歩△6九飛▲4八金引△4七銀▲9七角。
 自らの急所である一筋を突き捨て、△6八馬と▲7八銀を刺し違える。一体武田に何が起こったのだろうか?先手の▲48金〜▲97角が絶妙の手順で先手勝勢だ。この後、手段に窮した武田は△2五歩と自らの玉頭まで突き出したがカウンターにあい、一瞬で撃沈した。「隣(馬上)の将棋が気になってしまって・・。」どうやら私の将棋をみて動揺してしまったらしい。何が起こるかわからないのが団体戦。仲間を信じ、目の前の対局に集中することが重要だ。武田には「心を揺らすな。」とアドバイスを贈りたい。これで4−2となり東大の優勝が決まった。

【大将戦 主将対決】

 最後に残ったのが大将戦。両チームの主将対決だ。山田の後手番3三角戦法で始まった本局は山田の振り飛車穴熊に高橋くんの美濃囲いに落ち着く。

 △6四角と打った局面だが一目7五歩、6五歩の拠点が大きく後手が優勢にみえる、しかし、ここからの高橋くんの指しまわしが素晴らしかった。▲1七香△1九角成▲3三歩成△同桂▲3七歩△2五桂▲3六飛△2九馬▲3一飛成△6二飛▲1一竜。▲1七香とかわしておいて▲3三歩成〜▲3七歩が屋敷九段も絶賛の巧みな手順で1九の馬が使えなくなった。飛車を成り込んだ局面は先手勝勢に近い。この後もリードを広げた高橋くんが快勝した。
 「学生将棋最後の一局にいい将棋が指せて嬉しい。」と高橋くん。強い勝ち方だった。

【終わりに】

 こうして5−2で東京大学の二連覇が決まった。
 今年の東大は昨年日本選手権を制したメンバーがほとんど残り、前評判が非常に高かったが評判通りの強さを発揮した。リコーが誇るアマトップクラスの山田、武田に勝利しての優勝は見事の一言に尽きる。特に高橋主将は在学した4年間で3回日本選手権に出場し、すべて勝利を収め優勝に貢献した。この記録は当分破られないであろう。
 これで日本選手権は学生の4連勝で社会人の11勝10敗。来年は社会人が意地をみせるのか?学生が追いつくのか?今から楽しみだ。
 最後になりましたが、選手の皆様、応援してくれた皆様、日本選手権を取り上げて頂きましたマスコミの皆様、本当にありがとうございました。

【プロ棋士の感想】

屋敷九段(審判長)

 日本選手権は初めて参加させて頂きましたが対局前の緊張感に驚きました。東大の中終盤にかけての強さが印象に残りました。

阿久津六段

 言いたい放題の解説会で楽しかったです。素晴らしい大会だと思いますので日本将棋連盟の棋士としてこれからも応援していきたい。

熊倉女流1級

 たくさんの人達と交流ができてよかったです。とても楽しかったので来年もまた参加したいです。

 第21回の結果(2009年2月21日)

       【リコー】  2 − 5  【東京大学】
 大 将    ▽ 山田 洋次  ● − ○  ▲ 高橋 淳
 副 将    ▲ 野山 知敬  ○ − ●  ▽ 阿部 晃大
 三 将    ▽ 細川 大市郎 ○ − ●  ▲ 重野 和彦
 四 将    ▽ 武田 俊平  ● − ○  ▲ 武内 譲司
 五 将    ▽ 馬上 勇人  ● − ○  ▲ 谷崎 生磨
 六 将    ▲ 伊藤 享史  ● − ○  ▽ 山口 大志
 七 将    ▽ 山内 祥敬  ● − ○  ▲ 田中 明郎
 過去の結果
 社会人代表勝敗学生代表
第1回リコー−1東京大学
第2回リコー−2早稲田大学
第3回東芝3−京都大学
第4回リコー−2東京大学
第5回リコー−3東京大学
第6回アルゴリズム研究所3−東京大学
第7回富士通−3東京大学
第8回リコー−2東京大学
第9回プロセス資材3−早稲田大学
第10回リコー3−東京大学
第11回リコー−2早稲田大学
第12回リコー3−慶應義塾大学
第13回プロセス資材2−立命館大学
第14回ジュポン化粧品−3明治大学
第15回ジュポン化粧品−3立命館大学
第16回日本レストランシステム−2立命館大学
第17回NEC−2立命館大学
第18回NEC2−東京大学
第19回リコー3−立命館大学
第20回NEC2−東京大学
第21回リコー2−東京大学
11−10

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