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第20回リコー杯アマチュア将棋団体日本選手権

〜〜〜東京大学が2年ぶり4度目のV〜〜〜

年月日:2008年2月23日(土)

場所:東京都大田区「リコー大森会館」

主催:株式会社 リコー

後援:日本将棋連盟、朝日新聞社、週刊将棋、全日本学生将棋連盟

レポーター:馬上 勇人

【第20回リコー杯アマチュア将棋団体日本選手権】

 「今日は東大将棋部代表としてはもちろん、学生将棋を代表してという意識で臨みました。」
 局後、東京大学主将高橋淳くんは語ってくれた。その言葉には激闘だった学生王座戦を制した自信と、そこで敗れ去った仲間のためにも勝ちたいという強い思いを感じた。
 社会人と学生のナンバーワンチーム(職団戦、学生王座戦の成績で代表決定)が7人対抗団体日本一を決める第20回リコー杯アマチュア将棋団体日本選手権(主催・リコー 後援 日本将棋連盟、朝日新聞社、週刊将棋、全日本学生将棋連盟)がNECと東京大学の組み合わせで2月23日に東京都大田区「リコー大森会館」で行われた。
 この大会はリコーの創立50周年を記念して創設された「創立50周年基金」の社会文化貢献事業の一環として1989年にスタートし、今年で20回という節目を迎えることになった。年々注目度が増すこの大会、今回も近代将棋をはじめ、将棋世界、週刊将棋、朝日新聞社、BIGLOME、囲碁将棋チャンネル等、多くのマスコミの方に来ていただいた。
 今回の社会人代表は春、秋と職団体戦を連覇したNEC(2年ぶり3回目)、学生代表は冬の王座戦を全勝優勝した東京大学(2年ぶり9回目)。
 この対決は2年前の再現でもあり、その時は東大が5−2で勝利を収めている。
 今年は日本将棋連盟から阿久津六段、瀬川晶司四段、室田伊緒女流一級をお招きし、併設イベントとして指導対局会、解説会を実施した。会場には小学生から学生、女性を含め多くの方々が集まり、石川陽生七段、広瀬章人五段、中村太地四段、野田澤彩乃女流一級も熱戦の模様を見守った。
 室田女流一級の振り駒の結果、東京大学の奇数先に決まった。
 当たりはNEC−東京大学の順で大将から林隆弘―高橋淳、辻清治―阿部晃大、加藤幸男−山口大志、伊藤雅明―谷崎生磨、清水上徹―重野和彦、長岡俊勝―井土宏、加藤徹―木口翔太郎。

【五将戦】

 NEC清水上さんは今年のアマ名人。開始前「タイトルホルダーとして負けるわけにはいきません。勝ってチームを牽引したい。」と力強く語ってくれた。重野くんは医学部の3回生。アマ大会を含め個人戦でもよく上位に進出している。
 相振り飛車の出だしから始まった本局は清水上さんが作戦勝ちをおさめる。攻めを焦らされた重野くんが無理気味に仕掛けるが、清水上さんの丁寧な応手にあい形勢は苦しい。
 ここで重野くんは一分将棋に。対して清水上さんは50分近く時間を残している。ここで勝負手の▲6六銀。清水上さんの表情が険しくなる。「なんだこの手は?」といわんばかりだ。そして熟考し△8五桂。先手の▲9四香〜9八飛車に△9七歩を用意した決め手だ。
 以下はアマ名人の完勝。まずはNECが先勝した。

【副将戦】

 NEC辻さん、東大阿部くん共に2年前にも日本選手権に出場している。その時は共に敗れてしまったため雪辱戦だ。
辻さんが先手で始まった本局は阿部くんが東大ではやりの角交換型振り飛車穴熊に臨む。東大ではこれをレグスペと呼び、部内で研究が進められている。将棋は中盤の入り口で辻さんにミスがあり阿部くんが優勢になるが辻さんも力を発揮し懸命に食い下がる。
 ここから△6一飛▲5二馬△2七馬▲6一馬△同金▲3一飛△3四角▲3六歩△6六歩と進むが最後の△6六歩が辻さんが軽視していた後手の好手だった。
 ▲3五歩には△6七歩成▲同金△同角成▲同玉△1六馬▲6一竜△2七馬としておいて後の△7九飛をみせれば後手が一手勝ちであろう。本譜は▲4五歩と粘りに出たが、△6七歩成から最後は怪しかったものの阿部くんが押し切った。これで1−1。

【四将戦】

 四将戦は還暦を迎えたアマ棋界の重鎮、伊藤さんと昨年入学したばかりで時期エースの呼び声が高い谷崎くん。最年長VS最年少の注目の戦いだ。
 伊藤さんはこの大会のために大好きなゴルフを我慢して、将棋に打ち込んできた。
 谷崎君のレグスペに伊藤さんは自陣角から一歩得に成功。局後、話を伺うと谷崎君の棋譜を調べ、研究してきたらしい。
 ここからの伊藤さんの指し手が阿久津六段を唸らせた。▲6六歩△7一飛▲9八玉△8五銀▲4四歩△7四銀▲4三歩成△5一金▲4四角△7七歩成▲同金△8五桂▲6七金右。
 戦いから玉を遠ざげる▲9八玉、△8五銀にかまわず▲4四歩、本格派の伊藤さんの持ち味が全開に出ている。
 この後は、後手の無理攻めをうまく咎めて快勝。
 「いやあ、驚きました。伊藤さんの格調の高さに。」と阿久津六段。伊藤さんの会心譜だった。

【七将戦】

 加藤徹さんは職団戦での勝率が非常に高く、NECの日本選手権出場に大きく貢献した。
 木口くんは学生大会の個人戦でも活躍。性格も明るいチームのムードメーカーだ。
 加藤さんの四間飛車に木口が急戦を仕掛けるが、進行がとても速い。お互いの自信が伺える。
 ここから▲同角△5四桂▲4四歩△4六桂▲4三歩成△5八桂成 ▲同金△5七歩▲6八金△5八金▲5二と△同金▲4一飛と進む。
 △5八金と先に食いついた後手がやれそうだがここで▲5二と入った手が阿久津六段を感心させた一手。△同金に▲4一飛と打った手が▲7一銀と△4五の桂馬を狙った手で厳しい。
 以下は△5四金▲7一銀△7三玉▲8五桂△8四玉▲6六角から後手玉を寄せきった。これで2−2。

【三将戦】

 NECは4月に結婚予定の加藤幸朝日アマ名人。フィアンセに話を聞くとデート中に近代将棋を読みながら買い物にいくことがあるらしく、注意をしても聞いてくれないのが悩みらしい。
 東大の山口くんは一時期将棋から離れていた時期もあったが復活してきた。趣味は海外旅行で暇さえあればいってくるが、日本選手権に合わせてスケジュールを調整してきた。
 将棋は加藤君の一手損角換わりから山口君の攻めを加藤さんが受ける展開に。
 次に△9六歩がみえているので先手は忙しいが・・。以下▲3三歩成△同桂▲3四歩△4五桂▲同銀△同銀直▲同歩△3八銀▲2四飛△2三歩▲2六飛△4七銀成▲4四桂。
 最後の▲4四桂が非常に厳しかった。この局面、後手が金得なのだが▲9七角の睨みが厳しく既に後手がいけないようだ。
 最後も華麗に寄せきり、山口くんが大敵相手に大きな一勝をあげた。これで東大の3−2。

【六将戦】

 NEC長岡さんは2年前の雪辱に燃えていた。開始前から気迫がほとばしる。東大の井土くんは団体戦に非常に強くこの日本選手権が始まる前まで22連勝中らしい。井土くんの8五飛車戦法で始まった本局は、井土君が優勢になるも長岡さんが強烈な追い込みをみせる。
 ここから▲7三馬△同銀▲2三香△3二歩に▲7二角と進む。▲7二角が、プロレスが大好きな長岡さんによると「この忙しい局面でぼんやりしているが飛車をとれば▲2三歩成以下の詰みがあり自玉の緩和にもなるスモール・パッケージ・ホールド(技名の意味はわかりません)らしい。」
 しかし、ここで△4五角▲5六歩に△4八成香としたのがそれを上回る好手。▲9四角成△5六角▲7七玉に△8七金と打った手が好手で▲同玉に△8九飛成以下、先手玉は詰んでいる。
 「△8七金がみえていませんでした。」と長岡さんは残念そうだった。
 検討の結果、△3二歩がなかなかの一手で▲2三歩成△同玉▲3一角に対しては△4六桂と飛車の横利きを通すのが好手で後手が残していることがわかった。ここで東大の4−2となり優勝が決まった。

【大将戦】

 最後に残ったのが大将戦。
 NECのスーパーエースでなんでもはやいと評判の林隆弘さんと東大将棋部主将の高橋くんだ。二人とも顔立ちが端正で、気品が漂いとてもかっこいい。イケメン対決だ。
 矢倉から後手の林さんが急戦をしかけるが仕掛けが無理気味だったようで苦戦に陥る。図は終盤の局面。
 以下▲5四歩△3五桂▲5三歩成△同玉▲6四角△4四玉▲6七歩△5七歩▲同金△同銀不成▲同玉△5二香▲5四歩△同香▲5五歩。
 途中、▲5三歩△同玉▲6四角△4四玉と王様を危険地帯に呼んでおいて▲6七歩と催促にいったのが冷静な決め手だった。この後、林さんも必死にせまるが高橋くんが冷静に対処して見事、勝利を収めた。
 「今日は東大将棋部代表としてはもちろん、学生将棋を代表してという意識で臨みました。いい将棋が指せてよかったです。」と高橋くん。
 「日本選手権はこれまで5回、出場しているがまだ勝ってなくて・・。」と苦笑いの林さん。

【交流会】

 こうして今年の日本選手権は東京大学が5−2で勝ち2年ぶり4度目の優勝を飾った。これで第18回大会から学生側の3連勝。対戦成績も社会人の11勝9敗と拮抗してきた。 終了後は、近くにあるリコーの食堂で交流会が行われた。戦いが終わればみんな笑顔だ。
 最後は恒例となった?室田女流1級による一本締め。「将棋界の発展を願って♪♪。」
 みんなの笑顔がみれるように来年もまたいい大会にできればと思う。
 最後になりましたが、選手の皆様、応援してくれた皆様、日本選手権を取り上げて頂きましたマスコミの皆様、本当にありがとうございました。

【プロ棋士の感想】

阿久津六段

 日本選手権は初めて見にきましたが団体戦は独特の緊張感があって素晴らしいですね。私も出てみたいと思いました。
 NECの負けがわかった時に瀬川さんのテンションがとても下がっていて、この審判全然中立じゃないと思いました(笑)。

瀬川四段(審判長)

 どの戦いも熱戦揃いで素晴らしい戦いでした。特に東大は序・中盤をよく研究しているなという印象を受けました。
 個人的にはNECが負けてとても残念でした。来年以降の巻き返しに期待したいです。

室田女流一級(4月から大学生)

 去年も来させて頂きましたが、とても緊張感があって素晴らしいと思いました。私も団体戦に出てみたいと思いました。

 第20回の結果(2008年2月23日)

       【NEC】  2 − 5  【東京大学】
 大 将    ▽ 林 隆弘   ● − ○  ▲ 高橋 淳
 副 将    ▲ 辻 清治   ● − ○  ▽ 阿部 晃大
 三 将    ▽ 加藤 幸男  ● − ○  ▲ 山口 大志
 四 将    ▲ 伊藤 雅明  ○ − ●  ▽ 谷崎 生磨
 五 将    ▽ 清水上 徹  ○ − ●  ▲ 重野 和彦
 六 将    ▲ 長岡 俊勝  ● − ○  ▽ 井土 宏
 七 将    ▽ 加藤 徹   ● − ○  ▲ 木口 翔太郎
 過去の結果
 社会人代表勝敗学生代表
第1回リコー−1東京大学
第2回リコー−2早稲田大学
第3回東芝3−京都大学
第4回リコー−2東京大学
第5回リコー−3東京大学
第6回アルゴリズム研究所3−東京大学
第7回富士通−3東京大学
第8回リコー−2東京大学
第9回プロセス資材3−早稲田大学
第10回リコー3−東京大学
第11回リコー−2早稲田大学
第12回リコー3−慶應義塾大学
第13回プロセス資材2−立命館大学
第14回ジュポン化粧品−3明治大学
第15回ジュポン化粧品−3立命館大学
第16回日本レストランシステム−2立命館大学
第17回NEC−2立命館大学
第18回NEC2−東京大学
第19回リコー3−立命館大学
第20回NEC2−東京大学
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