イベント・レポート

NECドリーム

年月日:2005年2月11日(祝)

場所:東京都大田区「(株)リコー・大森年金会館」

主催:(株)リコー、全日本学生将棋連盟

後援:週刊将棋

(敬称略)

リポータ:馬上 勇人

 社会人と学生のナンバーワンチーム(職団戦、学生王座戦の成績)が7人対抗で団体日本一を決める第17回アマチュア将棋団体日本選手権(主催・リコー、全日本学生将棋連盟、後援・週刊将棋)がNECと立命館大学の組み合わせで2月11日に東京都大田区「リコー大森会館」で行われ、NECが5勝2敗で勝ち初優勝を飾った。

 「NECの将棋部に入ってから13年が経ちますが、今日の将棋が集大成のつもりで指しました。素晴らしいチームメイトに恵まれ、勝つことができ本当によかった。」
 日本選手権終了後のNEC主将長岡俊勝さんのコメントである。
 社会人王者と学生王者のプライドと名誉をかけた熱い戦いが今年もまた繰り広げられた。

 今回で17回目を迎える本大会。ここまで社会人代表10勝、学生代表が6勝となっている。今年の社会人代表は春の職団戦優勝、秋3位の好成績を収めたNEC。日本選手権初出場だ。対プロ公式戦勝率7割を超える実績を持つ、今話題の瀬川晶司さん。この戦いに今までのすべてを賭ける長岡さん。馬上とは中学生以来の友人であり、尊敬すべき先輩である林隆弘さん。明治大学時代、共に明治大学を日本一に導いたかわいい後輩でもある清水上徹さん。立命館の後輩女性にモテモテの加藤幸男さんなど全国タイトル経験者が揃うドリームチームだ。

 学生代表は冬の学生王座戦を3連覇した立命館大学。3年連続4回目の出場だが、一昨年、昨年と社会人の厚い壁に阻まれている。主将の鈴木雄貴君を中心にイケメン準アマ王将山中君、学生名人の稲葉聡君、そして立命館実力No.1とも噂される禰保君を中心に今年度の学生王座戦を圧倒的な力で制した。選手の他、20人近くの応援団が関西から上京し、選手に熱い応援を送る。その中には女性部員が5人いるなど実に羨ましい。「私も立命館に入りたい」そう思った。開始前、立命館大学の選手、応援団が円陣を組み気合を入れる。「今年こそ勝つ!」強い気持ちが感じられた。会場にはこの他、アマ強豪で私の後輩の斎藤Dの教育係でもある遠藤正樹さんや、リコーになじみの深い早水千紗女流初段。最近、写真集をだしたバンカナこと坂東香菜子女流2級などが訪れ熱心に観戦されていた。私は密かに、バンカナと将棋を指しながら「さて、次はどっちの番かな(バンカナ)」といってみたいと前々から思っていたのだが、その後予想される彼女の冷たい視線を思うと切り出せないでいる。

 さて、当たりはNEC―立命館の順で大将から瀬川―石本優、清水上―奥村竜馬、加藤幸―山中恵介、伊藤雅明―鈴木雄貴、林―禰保拓也、加藤徹―稲葉聡、長岡―宮原洋介(敬称略)。この熱戦の模様を終わった順に振り返ってみたい。

【加藤幸男、先輩の意地みせる】

 まず最初に終了したのが立命館大学の新旧エース(モテモテ)対決となった三将戦。加藤幸さんは昨年まで立命館大学に所属し、学生三冠や王座戦二連覇を達成するなど大活躍していた。社会人になってからは仕事で大変らしいが、アマ竜王を獲得するなど将棋もがんばっている。山中君は、かなりいい男で、先輩の加藤幸さんほどではないがモテモテであろう。
 横歩をとった後手の加藤幸君に対して先手の山中君は馬をつくって対抗。山中君の▲7七桂と跳ねた構想が疑問で桂頭を狙った加藤さんが作戦勝ちを収める。ここから△7五歩▲8三馬△7六歩▲7二馬△同銀▲8五桂馬△6三角と進む。最後の△6三角と打った手が好手で桂馬取りと飛車の打ち込みを防いでいる。この後も暴れてくる山中君を自然に応対した加藤さんが完勝した。「山中には過去に2連敗していたので今回はどうしても勝ちたかった。」と局後の加藤幸さん。

【伊藤、気合の勝利】

 四将戦。伊藤さんは蒲田将棋道場で腕を磨く強豪だ。鈴木君は3年連続の出場になるがまだ勝ち星はなく、今回にかける並々ならぬ気合を感じさせた。
 将棋は鈴木君の四間飛車に対して伊藤さん得意の5七銀左急戦。
 先手の角が封じこまれているが、ここで▲6六銀と援軍を送ったのが好手。ここから△4一飛▲2二と△同金▲同角成△同角▲7五歩△6二角▲7四歩△7二歩と進む。後手は角金交換の駒得ではあるが角を自陣に手放すようでは苦しい。2三銀、4三金、2二角の遊び駒がひどくすでに形勢は大差だ。この後もビシビシとノータイムで気合を込めた伊藤さんの指し手が続き鈴木君を圧倒した。「対局終了後、読みがかみあわなくって困った。」と伊藤さんはおっしゃっていたがとても困っているようには見えなかった。これでNECの2−0 。

【天草の星石本、瀬川を倒す】

 大将戦はアマ将棋界のエース瀬川さんと立命館の秘密兵器で天草の星、石本君。開始前、誰がこの結果を予想できたであろうか?
 石本君の中飛車に対して瀬川さんは左美濃で対抗する。途中、瀬川さんが相手の攻めを呼び込みすぎた手が危険で石本君の突進をあたえることになる。図から▲6二角△4二銀に▲5二金と打ち込んだ手が瀬川さんの意表をついた食いつきの一手。先手玉は固く後手は攻めをふりほどくのが困難だ。この後も石本君の指し手は正確で粘る瀬川さんを相手にきっちりと勝ちきった。
 局後、瀬川さんは「敵は実にいい面構えをしていた。石本君の師匠、田尻隆司さん(アマ名人2回)には負けたことなかったんですが見事に仇を討たれました。」と苦笑い。
 敗れても熱くなることもなく淡々と感想戦を進める瀬川さんをみてさすがだと思った。

【加藤徹、学生名人を斬る】

 六将戦。加藤徹さんは県代表をよく経験する実力者で、団体戦でも急所の一番によく勝ちチームを勝利に導いている。稲葉君は1回生ながら今年の学生名人。見た目から将棋が強いオーラを発している。ここで▲2五歩とついたのが急所の一着。△6七とにも▲2四歩と取り込み手を緩めない。玉頭攻めから稲葉君に粘る余地をあたえず圧倒した。加藤徹さん強し。これでNECの3−1。

【長岡主将、万感の勝利】

 七将戦。NEC主将長岡さんは今回の将棋にすべてを賭けていた。勝つことが宿命づけられたこのドリームチームにおいて主将としての重圧は相当なものだったと推測される。宮原君は強豪立命館において昨年に引き続きレギュラーの座をしっかりとキープしている。宮原君の四間飛車に対して長岡さんは居飛車穴熊に。「負けられないこの一番。」穴熊に潜ることに何よりの幸せを感じる長岡さんにとって他の選択肢は考えなかった。作戦勝ちの序盤から慎重すぎる程に時間を使い確実にリードを拡大していく。そして100手目、駒台から金をとり万感の思いをこめて△2九金と着手。長岡さんの夢はかなった。

【清水上、王者の一着】

 清水上は3年前の明治大学時代に日本選手権を経験している。社会人になってからもその力は衰えないが、「最近ぷよぷよとお腹がでてきたのが悩みだ」と週刊将棋に書いたら怒られてしまった。どうやら少し気にしていたようだ。奥村君は立命館のポイントゲッター。昨年の日本選手権でも貴重な1勝をあげるなど団体戦に強く、仲間からの信頼も厚い。相振飛車ではじまった将棋。ここから清水上の指し手が見事だった。▲9五歩△同歩▲6四歩△同歩▲9三歩△同香▲5八角。最後の5八角が事実上の決め手。次に8八飛車で角が死んでしまうが△4六歩と角を助けようと1歩を渡すと▲9四歩が生じてしまう。この後も優位を拡大し奥村君を圧倒した。強い勝ち方だった。

【禰保、気迫の勝利】

 最後まで残ったのが五将戦。寄せのスピード、常に一手勝ちを狙う姿勢、そして普段の私生活から「なんでも速い」と評判の林さん。対するは沖縄魂の禰保さん。「社会人がタイトルを独占している中で学生の力を見せたかった。」と局後心境を語ってくれた。相矢倉で始まった本局。途中林さんに重大な見落としがあり迎えたのが図の局面。ここで6四角と打った手が厳しい一着であった。△同金▲同馬△6二飛車▲6三金△6一飛車▲7八玉と進んだ局面は後手の駒のバランスが悪く先手優勢だ。以降も粘る林さんを寄せ付けず勝利した。「遅い時(対局終了)はダメなんですよね。」と林さんは苦笑い。
 そんな林さんではあったが、懇親会が始まるや「押忍!押忍!」とさっそうと立命館女性部員のところへ。やっぱり速かった。「こんなにおもしろい人だとは思わなかった。」と、ある立命館女性部員がいっていました。中学校時代から少しもかわらない林さんを見ているとなんだかとても嬉しい。50歳になっても「押忍!押忍!」といって欲しいものだ。

 こうして、第17回日本選手権はNECの5勝2敗という結果で幕を閉じた。波乱はあったもののNECが貫禄をみせた形となった。これで通算成績は社会人の11勝6敗。「来年もまたこの舞台にたちたい。」局後、感想を求められた長岡主将は静かに語った。NECドリームはまだはじまったばかりだ。

 ※2次会が終了してふと気がつくと林さんがいない!?「やっぱり林さんは速いんだね。」と先に解散し電車にのろうとすると林さんから電話が・・。どうやら財布をトイレに落として格闘していたらしい。
 また来年も楽しいイベントになればいいな。そう思った。

 第17回の結果(2005年2月11日)

      【NEC】  5 − 2 【立命館大学】
 大 将    ▽ 瀬川 晶司 ● − ○  ▲ 石本 優
 副 将    ▲ 清水上 徹 ○ − ●  ▽ 奥村 龍馬
 三 将    ▽ 加藤 幸男 ○ − ●  ▲ 山中 恵介
 四 将    ▲ 伊藤 雅明 ○ − ●  ▽ 鈴木 雄貴
 五 将    ▽ 林 隆弘  ● − ○  ▲ 禰保 拓也
 六 将    ▲ 加藤 徹  ○ − ●  ▽ 稲葉 聡
 七 将    ▽ 長岡 俊勝 ○ − ●  ▲ 宮原 洋介
 過去の結果
 社会人代表勝敗学生代表
第1回リコー−1東京大学
第2回リコー−2早稲田大学
第3回東芝3−京都大学
第4回リコー−2東京大学
第5回リコー−3東京大学
第6回アルゴリズム研究所3−東京大学
第7回富士通−3東京大学
第8回リコー−2東京大学
第9回プロセス資材3−早稲田大学
第10回リコー3−東京大学
第11回リコー−2早稲田大学
第12回リコー3−慶應義塾大学
第13回プロセス資材2−立命館大学
第14回ジュポン化粧品−3明治大学
第15回ジュポン化粧品−3立命館大学
第16回日本レストランシステム−2立命館大学
第17回NEC−2立命館大学
11−6

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