【大会名称】- 第19回 朝日アマ将棋名人戦 全国大会 1回戦
【対局者】- ▲野山 知敬(近畿) × △金内 辰明(北海道)
【対局日】- 1996年3月9日
【対局場所】- 東京・晴海 ホテル浦島
【大会レポート】西田 文太郎
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全国16ブロックから代表32選手が参加、優勝にはトーナメントを5回勝ち抜かなければならない。
優勝者は、現朝日アマ名人の蛭川さん(22歳)と第19期朝日アマ名人決定三番勝負を争う。
32人の中で最年少は19歳が二人、最年長は73歳、20代が14人、30代8人、40代6人、60代1人と10代と20代で50パーセントを占める。プロだけでなくアマの棋界も若手が強い。
また、南さんの解説によれば、過去この大会では一度失冠してから挑戦者になった人は居ないし、復位した人はもちろん居ない。
このような中で、かつて5期連続名人位を獲得した30代の我らが野山さんは、何処まで期待に応えてくれるでしょうか?
アマレン恒例の「優勝者当てクイズ」では一番人気が、天野さんと林さんとのこと。
- ●96年3月9日(土曜)東京・晴海のホテル浦島
細長い部屋に二本の長いテーブルが並び、各8席と記録係の席とがきれいに並んでおり、野山さんは一番奥の海側のテーブルに付いている。
定刻の9時を過ぎて「一日目は、持ち時間各50分、それを使い切ると一手60秒、持将棋は27点法」などとアマレンの西村理事長が説明しているところへ林さんが息を切らして飛び込んできた。
さすがに全国のアマ強豪がそろい(これでも予選が他のアマの大会と重なって菊田さんとか遠藤さんとかはでていない)、一回戦から好取り組みが多い。
私は、野山・金内、林・新井田、天野・奥本、樋田・藤本戦を中心にぐるぐる見て回る。
金内さんは小樽商科大の19歳、皮肉にも野山さんが優勝候補の筆頭にあげていた選手。
やや小柄だが目つきは強そう。相矢倉模様で後手は5三銀から中央に進出。
野山さんは長考後一旦手洗いに立って席に着くと直ぐに決断の仕掛け。
端から手を作り攻め込むが強気な受けに竜を自陣に押し戻され危うい。
林・新井田戦は、ご本人が「15分で悪くしちゃった」と言ってた通り、相矢倉模様から角頭を攻められ苦吟に次ぐ苦吟。一月に東大戦で野山さんが優勢になったのと似たような局面である。
天野・奥本戦は、相居飛車で、7七、3三の角を先に好位置に運んだ奥田さんが、銀矢倉から作戦勝ち。終盤は見にこれず奥本さんの勝ちを後で知る。
樋田さんは、オロナミンCドリンクを2本並べているのが印象的。局面は作戦負けなのか時間を随分使って苦しそう。ここも、最後は見れなかったが藤本さんの勝ち。
新井田さんは、苦吟が功を奏して逆転したらしいが再度ひっくり返されて林さんの勝ち。
観戦はだんだん増えて30人くらい。南さんも登場、なんと可愛い茶色のリュックを背負った人や濃紺のショルダーを下げてる美しい人たちもちらほら交じっている。
さすがに金内さんは、読みが正確でなかなか優勢の野山さんに決め手を与えない。しかし野山さんは受けに回って辛抱して逆転した後は秒読みの中間違えずに寄せきった。ここが一回戦では最後まで時間がかかったことでも分かるように二人の実力は伯仲している。
昼食休憩後、12時半から二回戦。
野山さんの相手は東京代表初出場の25歳の宮崎さん。赤井秀和に似た感じのごっつい体格。ひねり飛車で来たのに対し野山さんは金を繰り出し、△9五歩、▲同歩、△同金と行ったところ9三の角切りから二枚換えをされてアレあれ?
南さんの差し入れのコーヒーも空しくそのまま、寄り切られてしまった。途中あまりにも分かり易くなり逆転の余地がなかった。応援団が金内さんに勝ったのに気を良くして、後は明日だ、等と油断したのが伝染してしまったのかと思ったら、野山さんは「前に一度負けたことがある」と言っていたから宮崎さんも強いのだ。
- ●96年3月10日(日曜)東京・晴海のホテル浦島
晴海埠頭公園は私の東京名所の一つ。昔、北杜夫の「ドクトルマンボウ航海記」を読んで初めてここへ来た頃は太平洋の海がちゃんと見えていたのに今はレインボーブリッジや臨海副都心の仕掛かりのままのビルの群で海と言うよりは湖のようなのが残念だけど、春の陽射しを浴びて照洋丸が係留されていたので満足して浦島へ。
自分の対局もなく、リコーのメンバーも出ていないのに見に行くのは全く初めてだが、最後に残った4人は皆それぞれ個性的で魅力的だからついふらふらと行く気になった。
林さんは、将棋の檜舞台も似合うが彫りの深くそれでいて甘いマスクなので歌舞伎の舞台にも立たせてみたいほど。
菊田さんと京大同期で、予選では瀬良さんを負かしている奥本さんは、度の強そうな眼鏡で読んでいないときに見せるひょうきんな目つきが読みふけっているときと対照的。
松本さんは、細身のところが佐藤康光八段に似ている。羽生七冠王は「将棋は盤上の技術だけ」と言うしその通りだと思うけど、指し手や仕草にその人柄の出る雰囲気も楽しい。
二階の昨日とは別の部屋で準決勝をやっている。
二本のテーブルを挟んで対局者、向こう側に記録係、対局者の周りをテーブルで囲ってあるので観戦者もあまり邪魔にはならないのだろう。
注目は林・奥本戦。
林さんのひねり飛車で、▲9五歩から先手が9二に歩を垂らして先制、一度奥本さんにもチャンスがあったらしいが私にはそのまま押し切った様に見えた。宮崎・松本戦は松本さんの逆転勝ち。
昼食後決勝戦。 今日は、持ち時間60分出60秒の持ち時間。
松本さんの4間飛車穴グマに、林さんは右四間に構える。
控え室では、新井田さんや吉沢さんの継ぎ盤研究。 林さんの作戦勝ちだが仕掛けが無理で穴グマ有利、詰めろ詰めろで穴グマの勝ちという。
ほぼ研究通り進み△8六桂▲7七玉△7八銀と詰めよ風で攻めていたが、局後「詰めよでなかったしこっちが詰めよで二重の勘違い」と松本さんが言っていたが、詰めよに行く前に一旦△6一歩と受けておけば万全だったらしい。
ということで早稲田の19歳の林隆弘さんが見事に優勝した。
終盤の読みの深さと正確さ、そして相手に間違わせる念力で強い強い。三位は雁木の宮崎さんが矢倉の奥本さんを大逆転で勝っていた。
【棋譜解説】野山 知敬
- 43手目 ▲1七桂
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▲9六歩と突きたいが、△2四銀で攻めが大変と思った。
- 49手目 ▲1三桂成
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決断の一手。
△同銀なら▲3五角があるので△4五歩を悪手にしようとした。
ただし、ここは、▲1四歩△同歩▲1三歩△1五歩▲同香△同銀▲1二歩成△同香▲1三歩の方が良かった。
- 60手目 △1九香成
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強く来られて困った。
△2八歩▲3二と△同王▲3九飛△3八銀▲同飛△同馬▲1一香成ぐらいで勝負かと思っていた。
- 74手目 △5三馬<DD>
ここは、△5五馬ぐらいで8二の飛車にひもをつけておき、後の飛車の素抜きの変化をなくする方が良かったと思う。
- 85手目 ▲2二歩成
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ねらいの▲5四角は、△4二王▲2二歩成△5三王で大変。本譜ではまた長引いた感じ。
- 98手目 △8六歩
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△9五桂の方がいやだった。
- 113手目 ▲4二銀成
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疑問。
銀成らずで取るべきだった。以下△4二同銀▲4一角以下寄りとなる。
- 131手目 ▲7五歩
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この角がしぶとい手で、まだまだ大変。
- 145手目 ▲3四歩
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このあたりでやっと優勢を意識した。
- 157手目 ▲4四香
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秒読みで直感勝負。本当に寄っているのかどうかはわからない。
- 173手目 ▲2四銀
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こうなっては寄せ合い勝ち。
【棋譜】