イベント・レポート

第77回 職域団体対抗将棋大会

〜〜〜リコー辛勝でS級初の3連覇達成〜〜〜

年月日:1999年10月11日(月)

場所:東京 日本武道館

リポータ:西田 文太郎 e-mail : nishida@cs.ricoh.co.jp


【職団戦…社会人ナンバーワンチームが決まる日】

 さわやかな秋晴れは、高く青い空に一点の曇りもない。空気も美味しく感じられるすがすがしさだ。千鳥が淵にはただ一羽の鴨が水面に浮かんでいる。朝まだ9時前なのに、ぞろぞろと武道館に人が流れている。

 将棋の好きな人には楽しみな年中行事の一つ、秋の職団戦だ。大人たちの頭脳スポーツの日だ。同時に社会人の将棋ナンバーワンチームが決まる日でもある。

 前回の成績をベースに昇級・降級を経て、最上位のSクラスを筆頭に、AクラスからFクラスまで分かれて競う。1チーム5人で、3勝以上をあげた方が勝ちという、団体戦だ。剣道などの団体戦は、先鋒、次鋒とひとりずつ順に戦うが、将棋は一斉に「お願いします」といって始まる。

 Sクラスだけは、8チームだけのスペシャルクラスで、ここにでている40人は全国代表クラスの強者揃いだ。学生将棋でならした早稲田の林隆弘、東海大の石井豊、東大の久保本晃夫といったビッグネームがそれぞれNEC、富士通、東芝に名を連ねていて新鮮だ。

 ここは、抽選で4チームずつに分かれてリーグ戦を行い、上位2チームが決勝トーナメントに進む。チェスクロックで20分、使い切ると30秒の秒読みになる。彼らは秒読みになっても延々と指すので、決着がつくまでに1時間はゆうにかかる。

 今回は参加516チームとやや少ない。A〜Cは64チーム、Dは60チームでのトーナメント。E、Fは128チームによるトーナメントとなった。トーナメントなので、初戦に負けると、当然失格であるが、慰安戦という負けたチーム同士でのトーナメントがある。このため、どのチームも最低2局は指すようになっている。

 A、Bクラスは30分切れ負けで、C以下は適当に時間を見計らって、周りの人が30秒の秒読みをするようになっている。

 職団戦は日本将棋連盟がしっかり力を入れており、挨拶には二上会長が自ら出席して激励してくれる。手合い係も中堅棋士を係長に配し奨励会員を60名近く動員し運営に当たっているので、3000人近くの参加者数の割には、スムーズに運ばれる。

 また、午前中の2局で終わってしまったチームのために6人の指導棋士を用意しているので、将棋好きには有り難い一日となる。

 ただ、残念なのは参加賞や入賞賞品が寂しいことだ。もう少し工夫の余地がありそうだ。

【リコー将棋部の戦歴】

 リコーは81年10月の第41回大会に初優勝して以来、94年3月の66回大会までの26回のうち、8連覇と2回の4連覇を含めて19回の優勝を誇る。時には2軍が1軍を下して優勝などというハプニングさえ有った。しかしながら第63回大会にCクラスで優勝した鈴木純一さんを擁するアルゴリズム研究所が次の64回大会には飛びクラスでAクラスにでて初優勝を飾り日本一の座に着いた。

 この前後から各チームとも強力になり、戦国時代の様相を呈してきた。このような背景の中で、94年秋の第67回大会からはSクラスが作られるようになった。Sクラスは初代優勝をアルゴリズム研究所、2代目リコー、続いて毎日コミュニケーションズ、プロセス資材、富士通と毎回チャンピオンが入れ替わっていた。

 かつての常勝リコーは97年10月の第73回大会で屈辱のAクラス陥落の憂き目をみた。S研という研究会を開いたりして棋力向上を目指したが、2年目にはちぐはぐなまま自然消滅してしまった。主力メンバーの高年齢化と蓄積疲労、更に田尻隆司、南尚文、豊島英といった有力メンバーの漸減によりリコー将棋部最大の危機にみまわれた。

 主力メンバーはAクラスからの出直しを心に誓い、それぞれスランプを乗り越えるために独自に努力をした。そして、翌74回大会ではAクラスで優勝し、1期でSに復帰した。昨年秋の75回大会では復帰即優勝を果たし、今春の第76回大会には新星山田洋次の活躍もあって、連続優勝を飾った。

 今回はSクラス制になってから初の3連覇を狙っている。ほかに、A、B、B、D、E、Fクラスに2軍以下のメンバーもでて、それぞれ優勝をめざしている。また、藤森保の率いる東京リコーチームもここのところ毎回連続昇級を果たし、メンバーも補強され、今回はAクラスでの優勝も伺えるほどのところまで来ている。

【Bクラスリコー3軍:一回戦】

 どーん、どーん、どーんと、大太鼓がなった。挨拶と優勝杯返還の後、対局が始まった。リコー三軍は藤原隆幸を大将に宮田暁、室井哲也、庭野和郎、西田という下位が怪しげなメンバーだ。大将、副将で2つ勝って、残りの三人で何とか一勝するしかない。

 私は富山県庁のY氏とだ。後手番で流行の中座流に進むのかと思ったら、先手は横歩を取らずに2六飛と浮き飛車に構えた。わずか15手進んだだけで、私には未知の世界に入っていく。ままよと、8五飛と形だけは中座流をマネしてみるが、果たして、相掛かりで、こんな手が通用するのだろうか。

 方針としては、何がなんでも中座流に中原玉にしようと決める。方針を自分一人の意志で決められるなんて、気持ちがいい。そして、5一金は次に指そう、いやこの次に指そうと後回しにしていたら、7四歩と桂頭を攻められて青くなってしまった。まずい、同飛だと、金を動かしていない罰が当たって8三角の飛車取り金取りを食う。

 もう駄目だと観念したが、さすがにここで投げてはチームの士気に関わると思い、我慢して苦しい受けを続けていると、温泉気分からか敵はすうっと遊び駒の銀を馬で取った。この辺から流れが変わり、ごちゃごちゃやっている内に勝負形になった。最後、相手が間違えて詰む方に玉が逃げて頓死してくれた。

 銀を取られたあとも、こちらに悪手もでたりしたので、何度も負けがあったが、なかなか一度ゆるんだ気分は引き締めるのが難しいもので、大逆転となった。それにしても、囲いを中途で止めてはいけないことを身にしみて痛感した。

 チームも4勝1敗で順調な滑り出しとなった。

【Bクラスリコー3軍:二回戦】

 次は隣のテーブルで第一試合を指していた岩崎電気だ。5将はT氏で、超早指しだ。右四間飛車でがんがん攻めてきそうな勢いだったので、矢倉に構えて金銀を中央に集めた。その分攻撃力が弱くなり、どうも敵地は遠い。完全な作戦負けだ。

 それでも、敵玉頭に嫌みをつけながら、長考を繰り返しなんとか反撃を狙う。だいたい早指しの人は、長考してふとした瞬間に指すと、調子が狂うことがある。

 攻め込まれて、玉が逃げまどっているとと金を作ってきたが、これは、2手すきかどうかも怪しい。そこで、薄い詰めろをかける順番が回ってきた。敵は30秒も考えただろうか、詰まないとみたらしく、受けに効いている馬を攻めだけの筋に移動させた。そのために、今度こそしっかりした必死をかけることができた。

 「あ、そんな手があったか」と、ここも超早みえで、投了してくれた。時計をみると、こちらは、残り2〜3分しかないのに、相手は、4分しか使っていなかった。

 チームも、大将が敗れる予定外の展開となったが、3勝2敗で勝っている。

【午前中が終わって】

 昼休みは、いつものように二階の観客席でお弁当を食べた。マネージャーの晶ちゃんが飲み物を差し入れしてくれた。これで勇気百倍、値千金のドリンクだ。

 そのあと、庭野、宮田と散歩に出かけた。気持ちのいい森林浴だ。大きな蜂が三人を次々におそう。自然は良いけど、こういう虫が困る。少し歩くとその蜂はいつの間にかいなくなった。

 Aクラス出場の2軍と東京リコーチームは、場所が狭いため午後からの対局となっている。

 Bクラスの5軍は不調か初戦負け、慰安戦も負けている。

 Eクラスの7軍とFクラスの6軍はいずれも2回戦で敗退だ。

 Dクラスの4軍と、われら3軍が2戦2勝で、3回戦に駒を進めた。

 Sクラスは、初戦プロセス資材に2勝3敗で負けている。大丈夫かなあと不安がよぎる。

【Bクラス3軍:三回戦】

 私自身、午後まで対局があることが珍しい。それも連勝しているので、気分はいいけれど、内容はすごく悪い。

 今度は、総務庁(1)のT氏だ。またしても後手番だ。右の銀が動いたので、てっきり相矢倉になるのかと思っていたら、中飛車にこられて、困った。玉の囲いようがないのだ。毎度のことながら、なんて序盤が下手なんだろう。

 打開しようと、位を取られた四筋の歩を突き返したら、敵は長考に沈んでしまった。そうか、まずかったのか。がさごそと五筋、四筋の位を奪われて、全く手も足も出ない状態になってしまった。

 こういう展開は、逆転の目がない。また、勝負手のでる余地もなく、ずるずる負けてしまった。

 しかし、チームはしぶとく3勝2敗で勝っている。これで、メンバー全員が2勝1敗となった。宮田君は、相手が時間切れなのに、投了してしまって負けた。何か勘違いしたらしく、王手をかけてきた金をはずしておけば、局面も勝っていたような気がする。まあ、時間に追われて興奮状態になると、どんなトンチンカンなことをしでかしてもおかしくはないものだ。

【Bクラスリコー3軍:4回戦】

 日立ソフトウエアエンジニアリングのK氏。ここで初めて先手番になった。相矢倉になった。勝率が高いと言われている3七銀戦法を採用する。▲5五歩△同歩▲同銀に敵は△7三角と引いた。自分の玉頭だけに筋が悪いかとも思ったが、▲75歩と角の頭に狙いをつけた。普通は、△5三銀と角の退路を作るところだろうと思っていたら、△7五同歩と取ってきた。たぶん単純ミスなのだろう、▲7四歩と打って、角が進退窮まった。で、△5五角と銀と差し違えてきたが、▲同飛からゆっくり指して、勝つことができた。今日初めて、序盤で有利になった。予定通り大将と副将も勝ってチームは準決勝に進むことになった。

【Bクラスリコー三軍:準決勝】

 富士通ビジネスシステム(1)のK氏が相手だ。隣の村中氏はアマ竜王の東京代表になったことがある人だという。

 またも後手番で、向かい飛車に左美濃で戦った。敵の飛車が動き出す前に馬を作り、敵の玉頭を攻めようとしたが、歩切れが痛く思うように攻めが続かない。そのうちに、形勢を挽回されて、最後は際どかったが、余していると思っていた。ちょうど敵の時間が切れて、勝ちになったが、局後に、庭野が、私の玉の簡単な三手詰めを指摘した。K氏も私も唖然。

 その鋭い庭野は、当然ながら村中氏に粉砕されていた。チームも悪運つきて2勝3敗で、3位という結果に終わった。





 将棋は、それぞれの強さに応じて、いろいろなドラマを演出してくれる、陰のプロデューサーだ。これがあるから、やめられない。

 ふとかなたに目をやると、白い鶴が舞い降りていた。夏の合宿で初めて知り合った和らぎのマドンナの登場だ。純白のニットのワンピースがよく似合っている。勝利の女神のおかげで、望外の戦果をあげることができたようだ。

【2軍、4軍、東京Rチームは】

 午前中連勝して残っていたDクラスの4軍は、第3試合で、敗退した。

 11時30分から始まったAクラスでは、期待の2軍が二回戦でつまずいてしまった。

 東京リコーは、初戦で負けてしまい、慰安戦に回って、3回勝って、次で負けた。

【Sクラスの優勝は】





 予選リーグの出鼻、プロセス資材に負けたリコー一軍だが、毎コミと富士通に勝って、予選を抜けた。

 決勝トーナメントでは、NECを3勝2敗の僅差で破り、決勝戦は、奇しくも初戦破れたプロセス資材となった。

 リコーは、大将に佐々木、以下野山、瀬良、山田、菊田と並ぶ。プロセスは、大将に小林、以下遠藤、青野、河上、石田という順だ。瀬良、菊田は、予選と同じあたりだ。

 大将戦は佐々木が勝って、ついで序盤早々馬を作られていた菊田がなぜか勝っている。その後遠藤さんに野山が負けて、きわどい寄せ合いを瀬良が勝ちきってリコーの勝ちが決まっていた。最後に、山田、河上戦がのこった。山田は、私ではとても勝ち目のない将棋を入玉含みに頑張っている。谷川さんは、山田に教えてあげないとといって合図を送った。山田は、気づかなかったようだが、やがて人垣が崩れたので投了したのだろうと思った。

 勝利の女神、和らぎのマドンナが応援に来てくれた甲斐があった。初の3連覇達成だ。きわめて効率のいい、逆に言えば薄氷の勝利だ。2勝3敗とやや不振の佐々木、山田が実に貴重な勝ち星を挙げているのだ。チームワークの勝利という感じがした。2年前のAクラス陥落という屈辱をなめたあとの復活だけに嬉しい。これを契機にもっと強いもっと楽しいリコー将棋部になれるといいと思う。それにしても、趣味の団体で、強さ、楽しさを長年にわたって維持することは、とても難しいものだ。

 これで、今年の社会人ナンバーワンチームは春、秋とも優勝したリコーとなって、来春の全日本選手権への切符を手に入れた。





予選1回戦予選2回戦予選3回戦本戦準決勝本戦決勝
プロセス資材富士通毎コミNECプロセス資材
野山×小林○島○古作○辻×遠藤
山田×遠藤×甲木○水沢○林×河上
瀬良○青野×石井○下村○山本○青野
佐々木×河上○出沢×小川×加藤○小林
菊田○石田○伊藤○斎藤×長岡○石田
2−33−24−13−23−2

完(記:99年10月17日、改訂10/20)

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