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イベント・レポート

フェアリープリンセス・ペア将棋大会

   〜〜〜将棋は愛、ペア将棋はエロス〜〜〜

月日:1998年11月29日(日)

場所:将棋連盟会館 研修室

リポータ:西田文太郎 e-mail : nishida@cs.ricoh.co.jp


 

【黄葉の絨毯】

 黄葉の絨毯には、ところどころオレンジ色の銀杏の実が散り、甘くすえたような銀杏の香りがほのかに漂う。鳩が森神社をたまに通ると、そのただずまいは微妙に変化しているが、四季折々の雅な静寂は変わらない。

 ここでしっかり拝んでいく人もいる。私は「よろしく」と心の中で拝んで、素通りしていく。願いをもつことの重要性には気づいていながら、神を信じられぬまま風流だけをちょうだいしている不心得者だ。

 

【24組のペア】

 男女ペア24組を、8組ずつの3部に分けて、スイス式リーグ戦3回戦を行い、3連勝したチームが優勝。持ち時間は30分で、使い切ったら、一手1分の秒読み。女性・男性の順に、交互に一手づつ指す。途中1回持ち時間の範囲で、相談タイムがとれる。

 1部には、アマ強豪がひしめいている。ほとんどが何らかのタイトルを取ったことのある人ばかり。九州出身ペアの足立・古賀、リコー合宿ペアの是安・谷川、夫婦の畑中ペア、師弟コンビの小野・柿沼、スマイル仲間の長谷・萩原、中丸・木暮、蒲田将棋クラブの棚田・西島、学生ペアの馬場・林と、魅力いっぱいだ。

 2部にもユニークなメンバーが。フェアリープリンセス、スマイル仲間の琴寄・林ペア、夫婦の出田ペア、藤田・古島ペア、師弟コンビの徳森・山中ペア、新鮮な佐藤摩耶・細谷ペア、リコー合宿の浅野・西田ペア、島貫・中山ペア、そして佐藤美保・熊田ペア。

 近代将棋の「駒音の聞こえる町」に載った予告を見て参加した人や、主催のフェアリープリンセスの方々を通じて口コミで集まった人達。ペア将棋として、24組もが一堂に会する大会はおそらく初めてだろう。主催のフェアリープリンセスと協賛のアマチュア東京将棋連盟の画期的な快挙だ。

 

【我がクリスタルペア】

 浅野さんとはリコー将棋部の合宿で初めてお会いした。色が白く清楚な若奥様という感じで、透き通るような声から水晶のマドンナとご紹介しよう。明るいかたで、敵の駒を取るときはぐいっと根っこからむしり取るようにしてはがして駒台に無造作に放る。

 初めてまだ3年くらいだというが、師匠筋の話では子ども達より上達が早いのだそうだ。知る人ぞ知る四間飛車党で、5筋の歩を突かないで自分から角交換を挑む。交換した角を、5六の地点に打つのを得意手としている。

 私は居飛車党だが、後手番ではぎこちない振り飛車も指す。いまだに定跡をきちんと覚えられないので、とかく力戦型になだれ込んでしまう。こんなものを書いている暇があるなら定跡をしっかり覚えろよと思うのだが・・・「羽生の頭脳」だって、「藤井システム」だってちゃんともってはいるんだけど。

 

【クリスタルペアの作戦】

 会場で会って、作戦を打ち合わせる。「イーカンジ」だ。もはやエロスが漂い始める。当然クリスタルペアの作戦は四間飛車だ。居飛穴対策、左美濃対策は藤井システムで行くと一致。彼女も今日「藤井システム」を買ってきたといって見せてくれた。私ももってきたと鞄を叩く。不安は、頭の中に入っていないことだけだ。でもそんなことは敵に気づかれはしない。

 両者同じく最高の本をもっていることでもはや勝ったも同然の気分である。気になるのは急戦対策だ。銀がのこのこ出てきたら、機先を制して角交換に行く。こちらの銀は3八で待機していること。5筋の歩は突かないこと。

 

【初戦】

 初戦の相手は、佐藤摩耶・細谷正紀ペア。「摩耶ちゃんは何年生?」ときくと、「*年生」と良く聞き取れなかったので、「え、4年?」といったら、「5ネン!」ときつい声で答えてくれた。二重瞼の奧の瞳がきりっとしていて、いかにも強そうだ。

 細谷さんは黒のセーターでハンサムな男性。社団戦でもかなり好成績らしい。

エロスの後手四間飛車に対して、オーソドックスな棒銀戦法でやってきた。ついクセで禁断の5筋の歩を突いてしまった。6筋の歩も突いてあるので、クリスタルペア必殺の角交換もやりにくい。

 なんとなく定跡形に進むが途中で、ふと気が変わって、といえば聞こえがいいけれど、うろ覚えのため、▲3四歩の取り込みに対し、銀で取るべき所を同飛車と、応じたため苦しくなった。

 相談タイムを取り、廊下に出て話し合うが、盤面がないので、あまり深くは相談できない。苦し紛れの捌きに出て、一瞬飛車を見捨てる最後のチャンスがあったらしいが、気づかずに飛車をかわいがって勝負所を逸してしまった。後は楽しみのない局面を粘るだけになったが、向こうは全く間違えない。

 初戦から何とも頼りないパートナーを演じてしまった。それでも優しい水晶のマドンナはお弁当をもらってきてくれて、さりげなく元気を付けてくれる。チョーイイカンジジャナイノ。

 振り返ると、1部リーグのしゃくやくのマドンナ・ペアは女王様とお呼びのマドンナ・ペアに敗れたとやや放心状態だ。敗者ペアの気持ちがわかってしまうというのも悔しさが倍増するものだ。

 

【二回戦】

 次の対戦相手は島貫志津子・中山禎一ペア。黒のセーターで精悍な感じのするマドンナと、メガネの奧の瞳が鋭いナイトの出現。初戦負け同士の対決だから入賞するためにはどうしても負けられない。円陣を組んで「打ち合わせ通りに行こうね」とクリスタルペアは気合いを入れる。

 先手四間飛車に対し、右銀戦法できた。当初の筋書き通り機先を制して角を換え、▲8二角と打ち込んで、クリスタルペアは楽勝ムードになってしまった。隣にいるだけで感じあえるのだからこわい。感想戦では、△7三角と合わせられて、結構難解な局面だったことがわかった。

 しかし、本譜は香車が一つ浮いて逃げたため、▲9一角成りから小ごまを拾いながら飛車をいじめる展開になって、本当に温泉気分になってしまった。

 その後かなりもたもたしたけれど、成り込んできた飛車を守りの銀で叱りつけ、優勢になった。この銀引きを水晶のマドンナはほめてくれた。しかし、感想戦では、叱られた飛車を見切っての猛攻があり、決して優勢ではなかったらしい。

 この、銀引き、飛車逃げの後は、クリスタルペア阿吽の呼吸で、全て二人の指し手と読み筋が一致して、見事に寄せきった。

 そして感想戦をやるたびに、私一人では、中山さんに勝てない棋力だということがひしひしわかる。そこがペア将棋の良いところ、うまくお互いの良いところを引き出しあえれば思わぬ力にもなるのだ。

 

【最終戦の始まり】

 三回戦は、徳森裕江・山中幸隆ペア。沖電気の師弟関係という。これまたいい感じのペアだ。この勝負に勝った方が入賞なので、負けるわけには行かない。

 水晶のマドンナはこのペアを知っていて、位取りの得意な人だという。後で聞くと、こちらの四間飛車作戦も先刻ご存じだった。

 先手を得たので、時計は左側に置く。浅野さんは私の右に座っているので、時計に少し遠い。でも、さっき、同じ態勢で指しているとき、彼女が指したとき私が時計を押すと、どうも手番の感覚が狂ってしまうことがわかったので、遠いけれども、自分で押すことにした。

 それは思わぬ効果があった。彼女が時計を押すために腕を伸ばすとどうしても、私の腕にあたるのだ。さすがに冷静沈着な私もたちまち盤面集中と水晶のマドンナの腕の触れ合いというアンバランスなエロスの世界にさまよってしまう。

 そんなことで将棋に勝てるわけがないと思うかもしれない。確かに将棋は勝てないかもしれないが、ペア将棋なら勝てるのだ。ここに、将棋とペア将棋との明確な違いがあるのだ。

 玉頭位取りを避けるべく、早めに▲3六歩とついておく。すると、五筋の位取りに来た。そこで戦前の作戦通り七筋、六筋の位を取って捌きを狙った。そして、桂交換の後、敵の玉が薄くなり、駒が動けば桂打ちという狙いもできた。

 

出田 友子

出田 和成

1●

4●

○  

藤田 政江

古島 総寿

1●

5●  

徳森 裕江

山中 幸隆

3●

2○

1●  

佐藤 摩耶

細谷 正紀

6○

8●

3○

2位

浅野 法子

西田 文太郎

5●

7○

4○

4位

島貫 志津子

中山 禎一

8●

6●

2●  

佐藤 美保

熊田 一也

7○

5○

1●

3位

 

【三部の結果】

 優勝 西山美佳・森美憲ペア

 2位 上島恭子・藤本良二ペア

 3位 栗田直子・坪井義典ペア

 

【第6回無級名人戦】

 【一部の結果】

  優勝 篠崎  梢

  2位 成毛 美代子

  3位 榎本 和代

 

 【二部の結果】

  優勝 武藤 由美(マジシャンのMISTY ミューさん)

  2位 松田 澄江

  3位 飯島 好江

 

(完:記:98年12月5日) 


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