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イベント・レポート

リコー将棋部 夏合宿 ’97

日時:1997年8月2日(土曜)〜3日(日曜)

場所:神奈川県湯河原「杉の宿」

リポータ:西田文太郎 e-mail : nishida@cs.ricoh.co.jp

渋滞には渋滞の楽しみが
みんな来てくれるかな
リーグ戦前半
リーグ戦後半
杉の宿の舟盛り
リレー将棋
恐竜は何故滅びたか
自由対局
B級決勝戦 ▲藤森×△早水


渋滞には渋滞の楽しみが

 よく飽きないものだと我ながら感心するのだけれど、今日も私の愛車88年型カムリ・ルミエールのカーステレオからはZARDの恋の歌が切ない声で聞こえている。

 時間にゆとりさえあれば渋滞も自由な自分空間を演出できるから結構楽しめる。時速20キロ程度以下の走行だと、ほぼステレオに集中できる。普通に走っているときは曲も聴いているようで聞いていないから、まさにバックグラウンドで、気がつくといつも同じさびの所だったりする。

 8月2日の土曜日とくれば、どの道だって混むだろう。まして近場の海の湯河原だ。最速は環八から東名、そして厚木から厚木・小田原道路、そのまま有料道路で湯河原へ。高速代だけでも約2500円のドライブだ。アメリカなら同じ距離を走っても一桁位安いだろう。その分存分に楽しむ一手だ。

 東名に入るまでにたっぷり一時間かかった。歌を聴きながら、目は前方を注意したまま対向車や併走車の中の美人を捜している。脇見運転はいけないと教習所で教わった気がするけれど随分昔のことだ。あのころは渋滞なんてなかったに違いない。この頃は、新聞を読んだり漫画の雑誌を読んでいるプロの運転手をよく見かける。もうすぐ追突防止の無線システムも実用化するだろうし、道路はなかなか広くならないだろうから、渋滞の楽しみ方は人それぞれ色々工夫をするだろう。

 交通ニュースによると東名も大和トンネル付近から「交通の集中による渋滞27キロ」とかいう。数年前には、「自然渋滞」などといういかがわしい言い方だったのが少しは改善されたようだ。「行政の怠慢による渋滞」とか「政治の貧困による渋滞」とかにしてほしいものだが、必ずしも原因を100パーセント突き止めているわけではないから少し言い過ぎかもしれない。原因系ではなく現象系でかわしている辺りが憎い。

 東名では、大体20キロ以下で、時に5キロ程度ののろのろが続く。中央分離帯の所々に対向車のヘッドライトを遮るためのネットのような四角いものがある。あれで用が足りるものかと不思議な感じで、更にそのネットの多くに蔓草がまとわりついている。あの植物が絡まるのも制作者の意図に入っているのだろうか。

 高速道路には、路肩の縁やガードレールにオレンジ色の警告ランプが転々と並んでいる。10年ほど前にAT&Tの技術系のダイレクターが「クリーニングのブラシがついている」といってものすごく感心していたので、私も見る度に未だに感心している。あの風を利用した自家清掃装置とそれを一目で発見したあの人に。

 厚木の近くでは富士山は雲か霞かお姿を見ることは出来なかったが、丹沢山系がぼんやり見えた。小田原・厚木道路は空いていて気持ちよく走れた。スイスイだ。おっと、バックミラーの中で赤いパトライトがくるくる回って近づいてくる。医薬品メーカーと手を組んでいるのかあれは心臓に良くない、でも、覆面よりはよほどましだ。それにパトロールしているだけなら全体のスピードもやや遅くなる程度で、交通安全上は効果がありそうだ。

 気がかりなのは、アーチ状の緑の橋がお洒落な真鶴道路入り口の石橋料金所の行列の長さだ。去年は、ここで思わぬ時間をとられた。この辺は、源頼朝が挙兵して負かされて逃げ回っていたあたりではないだろうか。こんもりした緑の山を眺めながらNHKの人形劇の新平家物語を思い出した、良くできたお人形だ。今年は行列が去年より短く20分位でぬけられた。

 湯河原に近づくと、黒っぽい海がきらきら光り、磯に寄せる波頭が白く砕けて気持ちがいい。海水浴場は、芋の子を洗うような賑わいで、赤やオレンジ、黄色といったベネトーンに勝るとも劣らないビーチパラソルや水着のラッシュで、思わず運転のスピードが鈍る。この辺は自動操縦に切り替えたいところだ。ここを通るときいつも将棋より海というか、将棋よりビキニと煩悩に悩まされる。

みんな来てくれるかな

 今年の合宿はひょんなことからマドンナ召集係をやることになった。将棋を女性に広める会の隠れ会員としては願ってもない役回り。されど、「女性は魔物だから気を付けろ」と斉藤茂吉が息子の北杜夫に忠告したそうだが、いかにも。谷川会長が誘えば二つ返事で来る美女達も私が誘うと、何かと用事が出来てしまうらしい。それでもしゃきしゃきのマドンナこと小野三枝子さんとフェアリープリンセスの市川さんと藤田さんが快く来てくれた。早水千紗女流2級も前回に続いて、また担当外では、藤森奈津子女流二段、林まゆみ女流二段、中倉宏美女流1級、亀光真由美女流育成会が参加してくれた。

 藤森さんの子息で小学4年の哲也君と7歳の春菜ちゃんが来てくれたので、厚みが増した。やはり女性と子供は華があるし将来にもつながるので少しづつでも増えて欲しい。ステイーブン・スピルバーグ監督の映画には必ずと言っていいほど子供がスクリーンにでてくる。最新作の「ロスト・ワールド」にもでてきて、得意の器械体操の鉄棒の技で恐竜を飛び蹴りしていた。

 リコー将棋部師範の屋敷棋聖が到着すると、どこからともなく一斉に拍手がわき起こった。今やタイトル保持者は3人なので、三強の一人といっても良さそうだ。

 杉の宿はとても混んでいて、東大の将棋部も合宿中のようだ。肝心のリコー将棋部紅一点、西川晶ちゃんが見えない。アレエ、気のせいか晶ちゃんが現れないのは私の責任だといわんばかりの空気が漂っているではないか。前回の冬合宿も急に来れなくなったので合宿は今回が初参加となる予定だ。「晶ちゃんは来てくれるかな」?

 そうこうしているうちに定刻になり部会が始まった。体調を崩している谷川主将に代わり野山主将代行が恒例の将棋部ニュースを披露する。春の職団戦のS級,A級ダブル優勝と、佐々木修一さんの朝日アマ名人戦準優勝がビッグな話題だ。野山知敬さんもベスト8、田尻隆司さんのアマ竜王ベスト8も立派なものだ。来年入社が内定した関西学生名人4回という大物新人の山田洋次さんの紹介と、S級で1軍の不動のポイントゲッター南尚文さんが惜しくもリコーを去るというニュースが報じられた。

リーグ戦前半

 56人が最新のリコーレーテイング順にAクラス20人,Bクラス18人,Cクラス18人と分かれてスイス式リーグ戦を各々4局行う。勝ち同士、負け同士で対局していくので4連勝すればほぼ優勝だ。持ち時間は20分、30秒だ。

 私はBクラスとなり、初戦が吉中さんだった。「最近よく当たるね」「同じ辺りをエレベータしてるからね」といいながら駒を並べる。公式戦は確か1勝1敗だ。でもいつ当たったんだっけ、思い出せない。合宿か三愛会しか対局の機会はないはずなのに。

 吉中さんの先手四間飛車に急戦5七銀左戦法を選ぶ。交換した角を飛車のこびんに据えられて、困る。何とか飛車交換して互角の分かれに持ち込んで勝つことが出来たが、局後の検討では、野山さんの指摘でぼろぼろになる変化が沢山あって、どうやら吉中さんのミスに救われていたようだ。

 2局目は、小学生の藤森哲也君だ。愛くるしい顔にお母さん譲りの瞳がきらきら輝いていて、ナイスボーイだ。小・中学生の伸び盛りの有段者は、一般的に指し手は早く、定跡もよく知っていて、終盤の寄せの読みは深い。中盤で、読みを過信して読み抜けがあったりしてポッキリ行くことがあるのが唯一の勝ち筋か。

 私は最近菊田さんの将棋を見ていて、雁木戦法が意外に面白いと思い、今回は試してみようと思っていた。てっちゃんは、一度攻撃のチャンスを見送り厚く盛り上がってくる。そばで対局していたお母様の奈津子さんが、自分の盤面よりもこちらの盤面の方が気になるらしい。チェスクロックがピッピイとなっているのに、ぼうっとしている。「あれ、よそでなっていると思っていた」となっちゃんはあっけなく時間切れになってしまった。

 雁木は玉が薄く者直質 頒兎 √旭完梦P握蔗迪⊂△6四歩
11 ▲7八金 12 △8三銀 13 ▲5八金 14 △8四銀 15 ▲7九角 16 △9五銀 17 ▲6七金右 18 △8六歩 19 ▲同歩 20 △同銀 21 ▲同銀 22 △同飛 23 ▲8七歩 24 △8二飛 25 ▲7七銀 26 △5二金右 27 ▲4八銀 28 △6三金 29 ▲9六歩 30 △7四歩 31 ▲3六歩 32 △3二金 33 ▲6九玉 34 △4二銀 35 ▲4六角 36 △7三桂 37 ▲5七銀 38 △4一玉 39 ▲3七角 40 △5四金 41 ▲4六銀 42 △6二飛 43 ▲5五歩 44 △4四金 45 ▲5六金 46 △3五歩 47 ▲3八飛 48 △3六歩 49 ▲2八角 50 △3七歩成 51 ▲同飛 52 △6五歩 53 ▲同歩 54 △同桂 55 ▲6六銀 56 △5七銀 57 ▲6五銀 58 △4六銀成 59 ▲同歩 60 △5五金 61 ▲同金 62 △同角 63 ▲6三歩 64 △8二飛 65 ▲7一銀 66 △6八歩 67 ▲同金 68 △8五飛 69 ▲5六金 70 △9九角成 71 ▲6二歩成 72 △3六歩 73 ▲同飛 74 △3三香 75 ▲3四歩 76 △8七飛成 77 ▲7七桂打 78 △4七銀 79投了

【解説:早水 千紗】

  69手目5六金では6二歩成で次の5二とを狙えばまだまだ難しかったのではないでしょうか。
  藤森君はまだ小学4年生なのに筋のいい落ち着いた手を指してくるので結構大変でした。
  次の大会の時はAクラスで勝てるようにがんばりたいと思います。


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