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イベント・レポート - 0012-

第67期 棋聖戦 第二局(公開対局)

月 日 :1996年6月29日
場 所 :東京港区 ホテル高輪
リポータ:西田文太郎

目次

始まるまで
公開対局
感想戦

始まるまで

 朝、寝ぼけ眼に新聞の記事がちらっとよぎる。

「東海観光は28日、ホテル高輪を11月末で閉鎖すると発表した」

 すると、今日は64年から開業して泉岳寺の高台にあるこじんまりしたなにやら懐かしいホテルのほとんど最後の花道になるのかもしれない。
 梅雨もそろそろ終わるかのような粘つく太陽の下、都営浅草線の泉岳寺駅から赤穂浪士四十七志の墓で名高い泉岳寺の直ぐ横のホテルまで坂をゆっくり上る。
 お寺の左の方には「ホテル高輪エース館」が有り、昼食にたまに行ったことがある。
 しかし、新聞記事を裏付けるかのように既に張られている縄と工事用の黄色と黒のパイプの衝立が索漠としている。
 もう二度と会うこともないだろうあの人に、もしトレンデイドラマのように偶然出会ったら「高輪のあそこは閉まったよ」と懐かしむだろう。 

 試合開始は午前九時、持時間は各5時間という一日制のタイトル戦。

 昼食休憩後の午後1時から地下2階の「オーロラ」で公開対局が始まる。
 椅子だけでも200席はあり、立ち見の人もいるので300人位は居る。1階の大盤解説会場「トロピカル」にも100人位は居るだろう。 ほとんどの人があっちへ行ったりこっちへ来たりしている。

公開対局

 午後12時45分頃、主催の産経新聞社の係の人が注意事項を言う。
「静かに、携帯電話やポケベルの電源は切って、写真撮影は最初の5分間だけ」など。
 壇上にはいつの間にか特別立会人の中原永世十段、立会人の大内九段、副立会人の佐藤康光八段等が座っている。
 観客席には子供連れや女性連れ、それに追っかけらしき女性グループもちらほらしている。

 やがて、空色の着物を着た仲居さんに先導されて中央通路から羽生棋聖・七冠王、三浦五段が入場してきた。
 羽生棋聖はシルバーグレイの着物に濃紺の袴と鶯色の羽織、三浦五段は芥子色の着物に薄い小豆色の袴と草色の羽織で若々しく涼しげで格好良い。
 拍手とフラッシュの渦を鎮めて係の人が「羽生棋聖です」「三浦五段です」と知らない人は居ないのにとぼけて紹介してくれるからまた拍手。
 壇上は向かって右側が出入り口になっているので左が上座かと思っていたら、ブー、外れで右に羽生棋聖、左に三浦五段が紫色の分厚い座布団に座った。

 羽生棋聖が駒を取り出し整然と駒を並べる、フラッシュフラッシュ。
 NHK杯の時にもよく見かける野月三段の棋譜読み上げにより、午前中の指し手を並べていく。
 左手にある大盤に同じ局面が並べられ会場の全員に見えるようになっている。
 戦形は角換わりから先手3七銀に後手棒銀。局面は33手目の▲6八飛まで。
 消費時間は先手の三浦五段が約80分、羽生棋聖は約120分。

図は7七とまで

 午後6時45分。係の人が次の一手の抽選は大盤解説会場に居る人だけに当たるのでここにいる人は了承して欲しいという。そんなと思っていたら誰かが「そんなの駄目だよ」と叫んでくれた。勇気あるね。
 係の人はもう一度打ち合わせをしてきてくれて、やはり現物と引き替えでないとトラブルになるので欲しい人は解説会場へ行ってくれと。
 でも、行くとこっちの良い席は人に取られちゃう。だけど私は運を逃がしてはいけないと思い、行くことにした。
 最後の最後に高群女流二段が私の名前を呼んでくれた。読みが、いや勘が当たった。ついでに中原永世十段の解説も聞けた。どうも61手目の▲8三歩からは駄目のようだ。  午後8時40分頃。三浦五段投了。拍手。フラッシュ。

感想戦

 中原永世十段が公開対局場の大盤でインタビューしながらおさらいをしてくれた。

 角替わりは二人とも予定だったと答える。

 棒銀について羽生「1筋を突き越されたので急戦で行こうと」

 24手目△9五歩の仕掛けに、羽生「ええ、この局面で仕掛けた例は無いと思います」

 29手目▲9七歩に
 中原「ここは▲9四歩もありますね」
 三浦「それは▲2六歩が2五に伸びていないので寄せあいになったときに少し苦しい」(爆笑)
 中原「すごいで研究ですね、私にも全然分かりません」(大爆笑)

 31手目▲4六歩、中原「控え室も全然当たらなかった」

 33手目▲6八飛
 中原「控え室もびっくり、こっちの将棋観が悪いのかと思った」(笑)
 三浦「いや悪い手でした」(爆笑)
 羽生「1秒も考えませんでした」。

 35手目▲8八銀打ち
 中原「凝り形ですね、形は気にしないんですか?」
 三浦「いや、ずうっと気になっていました」(笑)

 38手目△9一香
 中原「羽生さんも凝り形目指して頑固ですね」(笑)
 羽生「△6六歩から伸ばしてくれば△4四銀、△5五銀の予定でしたがなかなか突いてこないので端しか行くところがなかったので」

 55手目▲7八金
 中原「控え室では▲9八同金と取った方がよいと」
 三浦「変化の図で形が悪くなるので」
 中原「形は元々悪いから」(笑)

 61手目▲8三歩
 中原「▲8六銀の方がよいと控え室では言ってましたが」
 三浦「その予定でしたが△5九からじゃなく7九から角を打たれて悪いので、この方が粘れると思ったので」

 とまあ、こんな雰囲気で和やかで面白かった。観客は大喝采を贈っていた。
 ふと見回すと森内八段の顔もある。私が全日本選手権戦で見かけた神秘のマドンナも。


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